朝日新聞外交専門記者

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東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性差別と受け取れる発言について、日本政府の対応が鈍い。

加藤勝信官房長官は4日の会見で「政府として具体的なコメントは避けたい」と語った。内外の激しい反発をみてか、5日の記者会見では「五輪の理念である男女共同参画とは異なるものであって、あってはならない発言だ」と踏み込んだが、森氏の進退に関する質問については「国際オリンピック委員会(IOC)からは、この問題は終了との見解が出ている」とかわした。自民党の一部などで辞任を求める声は出ているが、政府当局に同調する動きはみられない。

政界の重鎮である森氏への遠慮もあるのかもしれない。それにしても、今年に入って改めて目立つのが、人権や民主主義の問題に関する日本政府のはっきりしない対応だ。

米連邦議会に多数のトランプ大統領支持者が侵入して死傷者が出た事件。加藤官房長官は1月7日の記者会見で、「懸念を持って注視している」「平和的かつ民主的に政権移行が進むことを期待したい」などと語るにとどめた。菅義偉首相も8日、記者団に「バイデン次期大統領の下で米国民が一致結束して歩んでもらいたい」と述べた程度だった。

事件について「激しい怒りと悲しみ」(ドイツのメルケル首相)、「ワシントンで起きたことは米国らしくない」(フランスのマクロン大統領)、「米国で起きた民主主義への攻撃」(カナダのトルドー首相)、「恥ずべき光景」(イギリスのジョンソン首相)などといった欧米社会の首脳の発言と比べて、随分見劣りした。メルケル、ジョンソン両氏はトランプ米大統領(当時)の責任についても言及している。

2月1日にミャンマーで起きた軍事クーデターでも加藤官房長官は3日の会見で、事態がクーデターに該当するとの考えを示したが、日本政府による支援策などについては「事態の推移を注視しつつ、今後の対応を検討したい」と語っただけだった。この発言も、バイデン米大統領が1日、「民主主義や法の支配への移行に対する直接の攻撃だ」と厳しく非難し、制裁の可能性にも言及したことと対照的だった。

このほか、日本は韓国の文在寅政権が進めている、北朝鮮を批判するビラの散布を禁止する法律について「事態を注視する」(政府関係者)という態度を維持。やはり、議会関係者を中心に、「表現の自由への挑戦」として激しい反発が起きている欧米諸国に比べて、どうにも歯がゆい動きをみせている。

日本政府関係者の1人は、人権や民主主義の問題が発生したとき、日本政府当局者がしばしば使う「注視する」という表現こそ、政府の常套句なのだと解説する。「注視すると言っておけば、当事者意識を持っているというアピールになるし、相手を傷つけることもないから便利なんですよ」という。確かに、加藤官房長官も、議会乱入事件やミャンマーでのクーデターで「注視する」という言葉を使っている。

文=牧野愛博

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