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朝日新聞外交専門記者

航空自衛隊入間基地での航空観閲式に出席した菅義偉首相(11月28日)((Photo by David MAREUIL/Anadolu Agency via Getty Images)

旭川市、大阪府、新潟県。まさに東奔西走、八面六臂の活躍だ。12月に入り、新型コロナウイルスの感染拡大や雪害で、自衛隊の災害派遣が続いている。「困ったときの自衛隊」の面目躍如で、自衛隊関係者も「国民の理解が得られてこその我々ですから」と説明する。

しかし、派遣に至る過程とやり取りをみていると、政治的な思惑がからんでいるのでは、決断が安易なのでは、という疑問を消すことができない。

自衛隊が北海道知事の要請を受け、旭川市内の医療機関などに看護官ら約10名の派遣を発表したのは12月8日。大阪府内への看護官ら7人の派遣発表は同月11日だった。

この一連の派遣のなかで、防衛省・自衛隊幹部が肝を冷やす事件が起きた。菅義偉首相が自衛隊トップの山崎幸二統合幕僚長らの前でつぶやいた一言が原因だった。8日午後の面会だったとみられるが、官邸に出向いた山崎氏らの前で、菅首相が陪席者に「最近、災害派遣に向けた自衛隊の腰が重いという報道があったが」と問いかける場面があったという。

総理が怒っている! 自衛隊は動揺し、派遣作業を急いだ。14日には、大阪府の医療施設に派遣される陸上自衛隊の看護官ら7人の出発式が、兵庫県伊丹市の伊丹駐屯地で報道陣に公開された。

ニュースを見た自衛隊関係者は、「派遣される隊員はマスク姿だったが、身元が特定されないか心配になった」と語る。世間でコロナの医療従事者への心ない差別などが問題になっているからだ。それでも出発式を公開したのは、首相ら政治家へのアピールだったのではないか。

もちろん、菅首相が国民の健康を真剣に心配したうえで、自衛隊を叱咤激励したというのなら、評価もされるだろう。だが、菅首相には、官房長官時代に自衛隊を便利使いしてきた前例がある。

菅首相が官房長官を務めた第2次安倍政権は「困ったときの自衛隊」を売り物にした。安倍晋三前首相が自衛隊に強い信頼感を持っていたからでもあったが、時には度が過ぎる使い方が目立った。

2018年9月に北海道厚真町などに被害をもたらした北海道胆振東部地震では、首相官邸は当初、自衛隊に1万人の派遣を命じようとした。だが、被害地域の範囲を考えた場合、「1万人も送れとは、1つのタコツボ(塹壕)に100人入れと言っているようなものだ」という戸惑いの声が上がった。

当時の菅官房長官が「発表する派遣人数は、スコップを持っている隊員の数にしてほしい」と語ったこともあったという。自衛隊が災害派遣される最大の理由は、インフラが破壊された場所でも炊事や宿泊を自力でまかなうことができる点にある。立派な任務を果たしているバックアップ要員を数に入れるな、という言動は、自衛隊を政治家の人気取り、アピールの道具にしていると言われても仕方がない行為だろう。

文=牧野愛博

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