問題は命じる側だけではない。大阪府の吉村洋文知事は12月7日、自衛隊看護師の派遣について、岸信夫防衛相に要請したことを明らかにした。
これについて自衛隊元幹部は「どうして防衛相に直接要請するのか、理解できない」と語る。自衛隊の災害派遣では通常、地方自治体の首長が地元の駐屯地司令や方面総監らに要請する。まず、実際に要員を派遣する関係者に要請した方が、混乱が少なく、迅速に対応できるからだ。この元幹部は「自民党府連と大阪維新の会が不仲だったからかもしれないが、政治パフォーマンスと言われても仕方がない」と語る。
また、自民党の国防族議員の間では大阪や旭川に派遣された自衛隊看護官らの処遇を懸念する声も上がっている。せっかく高度な医療技術を持っていても、地元の医療チームとすぐに連携が取れるのかという懸念だ。
実際、議員らからは「シーツの交換や患者の支払った診療費の除染作業をしているのではないか」という疑心暗鬼の声が出ている。大阪維新の会の政治アピールを嫌う自民党からの牽制発言かもしれないが、こうした声が事実であれば、自衛隊災害派遣を要請するための3要件である「公共性」「緊急性」「非代替性」をきちんと満たしているのか、という疑問も生じる。
自衛隊元幹部は政治家の自衛隊に対する姿勢について「焦眉の急であるミサイル防衛をどうするのか、敵基地攻撃能力を認めるのかなど、もっと取り組むべき喫緊の課題があるだろう」と語る。政府は18日、年内にまとめるとしてきた敵基地攻撃能力も含めた新たな戦略の決定を先延ばしにする方針を閣議決定した。自民党ベテラン議員によれば、政府与党は当初、1月初めの解散総選挙を想定していたため、秋ごろには、世論の反発を招きかねない問題の先送りを決めていた。
政治家の頭の中には、世論に受けるかどうか、政局を乗り切れるかどうか、ということしかないらしい。自衛隊元幹部は「災害派遣の決定はできるけれど、緊急事態のなかで敵基地を攻撃するかどうかの決断など、今の首相官邸にできるわけがない」と嘆いた。
過去記事はこちら>>