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朝日新聞編集委員(朝鮮半島、米朝・日米関係担当)

北朝鮮は10月10日午前零時から、朝鮮労働党創建75周年の軍事パレードを平壌の金日成広場で盛大に挙行した。カウントダウンが終わった後に次々打ち上げられた花火、オペラ歌手と思われる声量のある男性による国歌独唱、華麗な航空ショーなど、西洋社会にも負けぬ華麗な絵巻物語といった展開だった。

なぜ、北朝鮮はこの行事を真夜中に挙行したのか。世間では「金日成主席の命日の参拝も深夜だから」という指摘があったが、これは正確ではないだろう。朝鮮では伝統的に、祭事(チェサ)は深夜に行うという習慣があるからだ。祭事でもない軍事パレードを真夜中にやったのはなぜか。それは、2020年のニューイヤー・カウントダウンパーティーで味を占めた結果でないか。このときも平壌市民が金日成広場に集まり、一斉にカウントダウンを行った。2019年から2020年に日付が変わった瞬間、花火が乱舞した光景は、2020年10月10日の光景とそっくりだ。金正恩党委員長は、金日成広場をニューヨークのタイムズスクエアにしたかったのだろう。

金正恩氏が欧米文化にあこがれている事実は以前からたびたび指摘されてきた。2012年7月、正恩氏が観覧した牡丹峰楽団の公演にミッキーマウスが登場し、ハリウッド映画「ロッキー」のテーマ音楽が流れた。情報関係筋によれば、好物はドイツビールとエメンタールチーズだという。確かに10日の国歌独唱の場面など、どこかの国の野球かサッカーの試合前のセレモニーのようだった。

そして、この疑いを確信させるシーンを朝鮮中央テレビが10月12日に放映した。テレビの内容は、金正恩氏がパレードの翌11日、軍事パレードなどに参加した人々と記念写真を撮ったというものだった。正恩氏は10日のパレードの時と同じ、グレーのスーツ姿で金日成広場で閲兵するためのバルコニーに登場。眼下に集まった大勢の兵士たちがもみくちゃになりながら「万歳」と歓喜の声を上げているのを、満足そうに見下ろした。最初は兵士たちに拍手を送っていたが、そのうち、驚く行動に出た。

正恩氏は右手の拳を握りながら親指を上に突き立て、高く掲げた。そう、「thumbs up」だ。欧米で広く、賛成や満足を現す表現として使われるジェスチャーだ。北朝鮮が愛してやまないトランプ米大統領の大好きなポーズ。トランプ氏も5日、新型コロナウイルス感染のため治療を受けていたワシントン近郊の軍医療センターを退院した際に、早速サムズアップを披露していた。

文=牧野愛博

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