菅義偉官房長官は同日の記者会見で「現時点で韓国政府との間で支援に関する具体的なやり取りをしている事実はない」と述べた。韓国外交省も同日、「在日韓国人のマスク需要を把握したことはあるが、政府レベルで日本へのマスク支援の打診はしていない」などと記者団に説明した。
実際はどういう状況にあったのか。複数の日韓関係筋によれば、確かに「支援に関する具体的なやり取り」「マスク支援の打診」はなかった。ただ、それに類するやり取りは、確かに飛び交っていた。
関係筋らによれば、韓国側は水面下で「もし、韓国が支援を申し入れれば、日本は受け入れるだろうか」「日本は韓国に医療支援を求める考えはあるだろうか」などといった観測気球をしきりに日本関係者にぶつけていた。なかには、「中国は既に、日本に対して支援の打診をしているのだろうか」という照会もあったという。
日本は日本で、「是非お願いします」という回答は皆無だった。日本政府高官の1人は「即答できない。預からせて欲しい」と伝えたという。「そういう話は民間レベルで進めてもらえば良い」と回答したケースもあった。その結果、まさに「支援に関する具体的なやり取り」は進行していない。
なぜ、このような歯がゆいやり取りが続くのか。
韓国側には、日本による半導体素材などへの輸出管理措置の解除や日韓通貨スワップ協定の締結など、韓国世論の要求に応えたい考えがある。文在寅大統領が3月1日の独立運動記念日演説で「日本は最も近い隣国」と語り、新型コロナ問題を念頭に「共に危機を克服していこう」と呼びかけたのも、日韓関係改善の必要性を認識しているからだ。こうした事情が、日本に対する支援の検討に結びついている。
ただ、日韓関係筋の1人は「懸案が山積しているため、先に頭を下げたくはない」とも語る。韓国大統領府は支援の意思はあるものの、「日本が要請してくれば」という条件付きで考えているという。文政権を支える与党は4月総選挙で国会の過半数を占める地滑り的な勝利を収めた。従来の政策にお墨付きをもらったことになり、徴用工判決や慰安婦問題などで、日本に譲歩する必要がないと考えている。それが、「支援の要請があれば」という前提条件につながっているようだ。
さらに、ここ数年の日韓関係の悪化による、韓国内での対日感情の悪化も作用している。韓国メディアが日本への医療支援について報じると、韓国大統領府ホームページの国民請願コーナーに、「日本への支援反対」を訴える請願が寄せられた。関係筋の1人は「数はそれほど多くないと思うが、一定の政治勢力がいるということだろう」と語る。