日本は日本で「首相官邸は文在寅政権に辟易している。これ以上、関わりたくないというのが本音」(自民党有力議員の1人)という。安倍晋三首相も昨年12月の日韓首脳会談で、徴用工判決などについて、韓国側が自らの責任で解決するよう求めている。ネットの世界でも「ただより高いモノはない」「韓国からだけは受け取るな」という声が飛び交っていたようだ。
ただ、日本政府内の一部には「人道問題なんだし、日本が新型コロナ問題で余裕がないのも事実。素直に支援を求めても良いのではないか」という声もある。
思い起こすのは、筆者がソウルに在勤していた2011年3月に起きた東日本大震災だ。震災翌日には韓国も救助隊の先発隊を被災地に送り、救援活動を続けた。日本人が多く住むソウルの東部二村洞では、「元気を出して」と日本と日本人を応援する横断幕がすぐ掲げられた。当時の日韓関係は、同年12月の京都で行われた日韓首脳会談までは良好な関係が続いており、こうした政治的なしがらみに縛られない環境が整っていた。
日本も韓国も隣国であるだけに、政治的な摩擦からは逃れられない。ただ、政治対立によって気候変動や感染症など、国際的な協力が必要な分野まで機能不全にすることは避けなければならない。日本も韓国も平素、そのように主張してきた。例えば、日中韓首脳・外相会議が、開催国の思惑に左右されて開けない局面に突き当たったとき、両国はこの論理を持ち出して、開催の必要性を唱えてきた経緯がある。
新型コロナウイルス問題では、日本だけが、あるいは韓国だけが感染の押さえ込みに成功しても意味がないだろう。そして、安倍政権もこの考え方を支持している。トランプ米大統領は、中国寄りだという理由で、世界保健機関(WHO)への拠出金の停止に言及したが、菅義偉官房長官は15日の記者会見で、「専門的知見を有し、現場で支援を行う国際機関との協力は不可欠だ」と語り、米国に追随しない考えを示した。安倍晋三首相も記者会見などで、繰り返し国際的な協力の重要性を説いてきた。
いっそ、「日本」「韓国」というレッテル貼りはやめて、支援する側は名乗らず、支援される側もそのまま善意を受け取れないものか。今でも日本の各地でたびたび話題になる、「名乗らない善意の送り主」と、その気持ちを尊重してたたえるという「タイガーマスク運動」が、日韓の間で起きることは無理なのだろうか。