恩赦を受けたひとりが、トランプの元首席戦略官だったスティーブ・バノンだ。バノンは2020年8月、メキシコ国境の壁を建設する費用として集めた資金をだましとったとして詐欺罪で起訴されていた。
そのいっぽうでトランプは、自身に対して予備的に恩赦を与えることは思いとどまった。親族や顧問弁護士のルディ・ジュリアーニも恩赦リストから漏れた。事情をよく知る関係筋によれば、ホワイトハウスの職員が、有罪という印象を与える可能性があるとして、自身や親族に恩赦を出さないようにトランプに助言したという。
任期最後の数時間を恩赦に費やすというトランプの決断は、過去の大統領たちのとった行動に沿っている。バラク・オバマはホワイトハウスですごした8年間の最後に、およそ330人の受刑者を減刑した。その大部分は、薬物がらみの軽犯罪で服役していた受刑者たちだ。
大統領による恩赦や減刑の慣例は、長年にわたって議論の的になっている。なかでも顕著な例が、ジェラルド・フォードによるリチャード・ニクソンの恩赦や、ビル・クリントンが任期最終日に弟ロジャーや国外逃亡したビリオネアのマーク・リッチ(Mark Rich)に与えた恩赦だ。
トランプの異例な点は、近年のほかの大統領、とりわけ前任者に比べて、恩赦や減刑などの減免制度を利用する頻度がはるかに少なかったことにある。米司法省のデータによれば、オバマが恩赦や減刑を与えた回数は1927回で、ハリー・S・トルーマンよりあとの時代の大統領としては最多だった。
オバマはおもに刑期を短くする減刑に重点を置き、減刑が全部で1715回だったのに対し、恩赦を命じたのは212回だった。
それに対して、トランプは減刑89回、恩赦116回だった。トランプが任期中に恩赦を与えた注目すべき人物としては、スティーブ・バノンのほか、大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたマイケル・フリン、選挙対策本部長を務めたポール・マナフォート、長年の盟友ロジャー・ストーン、娘婿の父親チャールズ・クシュナーなどがいる。