「可視性の価値(Value of Visibility)」と呼ばれるこのトピックについて論文を発表したのは、フランクフルト大学のアレクサンダー・ヒラート(Alexander Hillert)と、フィンランドのアールト大学に所属するミカエル・ウンゲホイアー(Michael Ungeheuer)という2人の研究者だ。2人は、ニューヨーク・タイムズ(NYT)の1924年から2013年までの紙面をもとに、他の関連するデータセットを追加する形で、株価の値動きを分析した。
その結果、報道される頻度が高い株式銘柄には、株価の上昇以外にも好ましい変化がもたらされていることがわかった。これらの銘柄では、売上や利益率の成長率がほかと比較して高く、コーポレートガバナンスに関しても改善がみられたのだ。
また、メディアへの露出が多い企業で、なおかつ業績が振るわない場合、その企業を率いる最高経営責任者(CEO)は失職する可能性が高くなることもわかった。トップの失職は、職を追われる当人にとってはありがたくないことかもしれないが、株価には良い効果があるとされている。
メディアの報道が多い方が株価の実績も良くなるという現象の裏には、こうしたメカニズムが働いているとも考えられる。
報道のトーンの違いが株価に与える影響は
株価上昇に影響する可能性があるメディアの報道は、ポジティブなものとは限らない。一般的に言って、ネガティブに報道された株式銘柄であっても、メディアからの注目が比較的少ない株式と比べると、株価が上昇する可能性が高まることが判明している。
ある1年間で少なくとも1回、NYTの記事で取り上げられたという企業が、全体のうちで占める割合は、30~60%と、かなりのばらつきがある。そして、20世紀初頭と比べると、報道される企業の割合は減少傾向にある。これはNYTが、企業の決算についての報道から、ニュースになる他の出来事に報道の軸足を移しているという事情がある。