2016年に血縁も地縁もなかった人口4000人の町に家族で移住し、翌年には「ひとが育つ環境をととのえる」をミッションとするNPO法人SOMAを設立。保育士、元教員、エディター、デザイナー、ミュージシャンなどが集う多彩なチームは、多様なプログラムを子どもたちに届けている。
ものさしだけでは測れないもの
SOMAが運営する高知県土佐町の「町の学舎あこ」。SOMAのオフィスであると同時に、子どもから高齢者までが集まるコワーキング・コスタディスペースとして使われている。
研究の世界は去っても、彼の穏やかだが芯のある言葉の端々からは、自然や昆虫と向き合ってきたことが人の発達・発育に対する彼の考えを形づくっていることがわかる。例えば、「人を含めたすべての生き物には、自ら育つ力が備わっている」という生命に対する信頼。そして大人がすべきは、子どもたちがもつ育つ力を引き出すための「土づくり」にほかならないと彼は言う。
SOMAのメイン事業である「i.Dare(イデア)」は、そんな彼の哲学からなる新しい学びの場だ。
不登校の児童は学年・地域によって1〜5%いるといわれるが、日本には、不登校に限らず既存の学校で困難を抱える子どもたちの「学校以外の学びの選択肢」がないのが現状である。そこでi.Dareは、学校に行かない・行けない小〜中学生を対象に、オンラインとオフラインのプログラムを通じて学びの環境を提供している。
2019年度に高知県で行われたプログラムは、20年度に対象を全国に拡大。3週間のオンラインワークと1週間の合宿を1セットとし、子どもたちはオンラインで合宿の計画を立て、合宿中はともにフィールドワークや共同生活を行っていく。そこには数字による評定も、やるべきことが決められた時間割や規則もない。現地への集合も、三食の料理も、日々のアクティビティも、子どもが主体となって考え、選び、行っている。
i.Dareではフリータイムの使い方は子どもたち自身で決めたり、1日の終わりにその日の感想をシェアする「チェックアウト」を行ったりするなど、子どもたちの主体性や声を大切にしている。
直近の20年11〜21年1月に行われた合宿では、秋田から沖縄まで、年齢の異なる約15人が計3回、四国に集まった。コロナの状況下で合宿を行うかどうかの判断さえも、子どもたちとの話し合いで決められたそうだ。そんな新しい学びの選択肢をつくるための取り組みは、時代の変化に合わせた教育のあり方を模索する経済産業省の実証事業「未来の教室」に2年連続で採択されている。
「i.Dareを通して子どもたちが体験するのは、自分と向き合うこと(現状把握)、自分で選ぶこと(自己選択)、自分をありのままに認めること(自己肯定)。この3つを原則とし、それぞれが自分のペースで時間を費やすことで、圧倒的に子どもは育っていく。学校教育にフィットしなかった子が、元々もっていた力のままに育つ状態にまで回復していきます」と、瀬戸は言う。