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2021.01.26 17:00

NYから土佐へ、農業昆虫学を捨てて見つけた「偶然性の教育」


こうした変化は、学力や進学先といった"既存のものさし"だけでは決して測れない。だが保護者の声を聞けば、i.Dareに通う子に確かな成長があることがわかるだろう。ここでは、19年度のプログラムに寄せられたものをひとつ紹介したい。

「子どもという立場で大人に従っているだけではなく、一人の人間として尊重されることにより、生きる力がついてきていると思います。私は、保護者としても、また現代に生きる一人の社会人としても、これからの時代の子どもたちに必要な力は、分かっている答えを覚えて再現する力ではなく、分からない問題に失敗を恐れずに立ち向かう力だと思います。i.Dareでやってくれていることは、その力を伸ばすものだと感じています」

自己選択から生まれる予想通りではない未来



左から、SOMA理事で保育士の鹿内和朗、代表理事の瀬戸昌宣、副代表理事でクリエイティブディレクター/ミュージシャン/茶道家と多彩な顔をもつ濱田織人。

20年12月、この記事の取材は福岡県福津市で行われた。ここはSOMAの新しい拠点の候補地で、昨年知人に会うために福津を訪れた瀬戸は海と山に挟まれたこの土地の自然を見て、「次に展開したい事業のイメージにピッタリきた」という。

取材当日の福津は猛吹雪。だがSOMAのメンバーは、そんな悪天候をむしろ楽しみながら和気あいあいと撮影に協力してくれた。

「貴重なショットになりそうだね!」と誰かが冗談を言えば、みんなで瀬戸家の子どもたちと遊びながら現場を盛り上げる。些細なエピソードかもしれないが、それはSOMAの理事で保育士の鹿内和朗の言葉を借りれば、「偶然性を愛する」というチームのカルチャーを垣間見れた瞬間でもあった。

新たな拠点でどのような「学びの未来」が生まれるのかは、彼らにもまだわからない。しかし瀬戸が語るように、既存のものさしだけで測れるような過去の延長線上に、変えられる未来はないのだろう。「ぼくらがやろうとしているのは、これまでの価値観で価値づけできないこと。誰にも価値がわからない、予想通りではない未来が一人ひとりの自己選択から生み出されることに意義がある、という状態を積み重ねていきたいと思っています」。

SOMAが目指すのは、目に見える価値よりも、偶然性をたっぷり含んだ土づくりをすること。そこからは、予想もしなかった、しかし魅力的な、新しい芽が顔を出すはずだ。


せと・まさのり◎NPO法人SOMA代表理事。農学博士(農業昆虫学)。米国コーネル大学にて研究に従事したのち、2016年より高知で、21年(予定)より福岡で教育プログラムを展開する。

文=宮本裕人 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN No.079 2021年3月号(2021/1/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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