米国の政治家たちはインサイダー情報で儲けているのか?

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2020年1月24日、アンソニー・ファウチ医師らは米上院保健委員会において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスクについて非公開のブリーフィングをおこなった。政治家たちはその後、この情報を利用して株取引で利益をあげたのだろうか?

どうやらそうではないようだ。ダートマス大学の研究チームは、政治家たちによる株取引データを分析。米国の政治家たちの取引実績は全体としてS&P500を下回る傾向にあると示した。質の高い情報にアクセスできる可能性があるにもかかわらず、である(ただし政治家たちは、こうした情報を株取引に利用することは禁じられている)。

こうした分析が可能になったのは、議員のインサイダー取引を禁じる2012年のSTOCK法により、政治家は重要株式取引の記録を45日以内に開示することが義務付けられているためだ。

疑惑


米国の政治家たちが、政府における役職を通じて得た内部情報をもとに、個人の利益のために株を売買することへの懸念は以前からあり、ジョージア州の上院決選投票でも話題になっている。

ファウチ医師らによる非公開ブリーフィングは、こうした取引機会を生み出した可能性がある。この仮説は検証可能だ。もし政治家が内部情報に基づいて取引しているのであれば、彼らは理論上、市場を上回る利益をあげられるはずだ。新型コロナウイルス感染症のパンデミックのように、のちに市場を大きく動かす重要なできごとは、仮説検証にぴったりだ。

検証


ダートマス大学のウィリアム・ベルモント(William Belmont)とイアン・ヴァン・フック(Ian Van Hoek)らは、まさにこうした分析をおこなった。彼らは新型コロナウイルスの感染拡大前後の時期に注目し、S&P500と比べた時の政治家たちの相対的な取引成績を調べた。

その結果、1~6カ月の短期的パフォーマンスに注目した場合、政治家たちの取引成績はS&P500を下回る傾向がみられた。大まかに言うと、2020年における政治家の株取引は、市場と比べて最大で3%下回るか、ほぼ一致する傾向がみられた。彼らが、市場を上回る利益を得たことを強く支持する証拠は見つからなかった。このことから、政治家の株取引は、当初考えられていたほどの問題ではない可能性が示唆される。

長期的影響


しかし、投資パフォーマンスの要因分析は、特に短期に関しては注意が必要だ。シグナルがノイズにかき消されてしまうことが珍しくないのだ。

2012年のSTOCK法成立以前の時期を対象とした複数の研究では、政治家による取引が実際に市場を上回る傾向が見られた。ルイジ・フアン(Luidi Huang)とユーハイ・シュアン(Yuhai Xuan)の研究によると、リスク調整後の年間ベースで約10%上回っていたのだ。しかし同研究によれば、STOCK法の成立以降はこの優位性が消えた。すなわち、STOCK法が意図した通りに機能し、透明性が高まったことで、疑わしい取引が止まったと考えられる。
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翻訳=的場知之/ガリレオ

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