パフォーマンスの要因分析
もちろん、市場を上回ったというだけでは、インサイダー取引の証拠にはならない。単に政治家の株式取引配分が優れていたか、高い投資スキルを備えた投資サービスを利用していたからかもしれない。
加えて、高いスキルのおかげで良好なパフォーマンスを示したように見えても、実際には偶然ということもある。市場のボラティリティの高さを考えると、パフォーマンス分析は、特に短期間における比較的少数の取引を扱う場合、困難を伴う。
市場の効率性
この研究はまた、市場がどれだけ効率的かという興味深い疑問を投げかける。市場が信頼できる予測ツールであることは明白だ。ここでの問題は、集合知をもつ市場が、機密情報のブリーフィングを頻繁に受ける有力議員よりも多くを知っているのかどうかだ。
例えば、ファウチ医師が2020年1月に上院議員に対しておこなったブリーフィングが周知の内容でなかったとしても、集合知としての市場はすでに、複数の公的情報源に基づいて、パンデミックのリスクを計算し始めていた。
このような疑問を解きほぐすのは一筋縄ではいかない。確かに、上院でのブリーフィングの頃にS&P500はわずかに下落したが、新型コロナウイルスの影響に起因する市場の暴落が起こったのは、その約1カ月後の2020年2月下旬から3月下旬にかけてのことだった。
従って、政治家による株取引は、一部で考えられているほど大きな問題ではなさそうだ。これは、STOCK法の成立によって行動が是正されたのかもしれない。あるいは、倫理的に問題のある米国の政治家が、ある程度の内部情報を得られたとしても、市場を上回るパフォーマンスを上げるのは難しいせいなのかもしれない。