経済・社会

2021.01.07 07:00

緊急事態宣言は経済にどんな影響を及ぼすか 昨年のデータから検証する


昨年9月、新型コロナウイルス対策専⾨家分科会後の記者会⾒で、東京⼤学の渡辺努教授や慶應義塾⼤学の藪友良教授が共同で発表した「⼈々の外出⾃粛に関する研究データ」が紹介された。

その研究によれば、1⽉から6⽉までの⾏動変容の7〜8割は新規感染者数の報道などの情報効果によるものであり、緊急事態宣⾔や学校の⼀⻫休校といった政策介⼊による直接効果は2割ほどだったということである。

グーグルが発表している各地点での外出率のレポートをグラフにしてみると、緊急事態宣言以降、オフィスへの出勤率は第2波や第3波など陽性者数の増加時には減っているようだ。先ほど見た小売業界や外食産業が緊急事態宣言の発令時のみ大きく落ち込んだことに対して、陽性者数の増減に応じて人々の外出が変動していることが分かる。

null
出典:グーグル「COVID-19 コミュニティモビリティレポート」のデータを基にマネネが作成

つまり、緊急事態宣言は確実に経済活動を抑制する一方で、外出という観点から見れば、あまり影響は持たず、むしろ日頃のメディアの報道のほうが外出を自粛させる機能があったということだ。

なので、これらのデータに基づいて緊急事態宣言の発出を判断し、その際にはしっかりと設計された補償制度が伴わなければ、やみくもに経済を破壊することになりかねない。

緊急事態宣言がはらむ危険性


新型コロナウイルスに対する考え方は二極化しつつあるように見える。

ひとつは、「コロナは風邪と変わらないので過度に恐れるべきでない」や、「危険なのは高齢者と基礎疾患持ちの人だけ」という考え方に基づき、極力経済をまわすべきという意見。

もうひとつは緊急事態宣言では事足りず、欧米のようにロックダウンをして感染者数を一気に抑え込んだうえで、海外からの入国に関しても厳格に管理をして、ワクチンの有効性が確認され、かつ普及するまでは人の往来や経済活動を抑制するという意見だ。

この問題が非常に難しいと思うのが、どちらも明らかに間違っているというわけではなく、結局はバランスの問題であるからだ。

菅義偉総理は元旦に放送されたテレビ番組のなかで、新型コロナウイルスの感染拡大防止と社会・経済活動の両立に全力を挙げる考えを強調していた。

私自身もかねてからアクセルとブレーキを同時に踏みながら着実に前進していく難しい政策が求められると指摘していたが、少しでも一方に偏れば、もう一方からは非難される。

人によっては戦時下とも表現する緊急事態において、国民を救えるのは国家だけである。感染拡大の防止を重視して経済活動を抑制するのであれば、それに見合った補償をするべきで、それをしないまま経済活動だけを抑制すれば、長い目で見ると、国民は国家を信用しなくなり、ひいては愛国心の喪失につながりかねない。

現時点では経済活動を抑制する方向で話は進みそうであるが、しっかりと補償についても言及がなされるか、このあたりもしっかりと私たちは確認すべきであろう。

連載:0歳からの「お金の話」
過去記事はこちら>>

文=森永康平

ForbesBrandVoice

人気記事