すべての人が「供述弱者」になりうる 冤罪をどう防ぐか|#供述弱者を知る

連載「#供述弱者を知る」 左から、小出将則医師、西山美香さん、秦融編集委員


秦編集員:司法側の問題としては、非常に矛盾を抱えています。発達障害者支援法が、2005年に大津地裁でこの事件の判決が出た年には施行されています。さらに2016年には、司法の現場においても発達障害への「配慮義務」が明記されました。ですが、その視点が軽んじられているのが現状です。

いかに閉鎖的な中で、法治が行われているのかを思い知り、私たちの調査報道の過程では驚きの連続でした。

冤罪の「当事者」として知ってほしいこと


呼吸器事件
西山さんが当事者として語ることとは

──西山さんが当事者として「供述弱者」の報道を通じて広く知ってほしいことはありますか。

西山さん:(皆さんは)「なぜ自白をするのか」と言われるかもしれません。ですが、誰でも逮捕されたら違う空間、違う世界になってしまいます。取り調べを受けた人はその気持ちが分かると思います。私みたいに障害があって、相手に迎合してしまう性格もあることを一般の人たちにもわかってもらったら、冤罪は減るんじゃないかと思います。でも、知ってもらうことはすごい難しいんだろうなと思います。

──当事者として、感じている捜査や裁判の問題点は、どんなことでしょうか。


西山さん:取り調べの(密室の)空間で、取調官と1対1でするのはあんまり良くなくて、弁護士立会いができればいいなと思います。いまは取り調べは可視化されているみたいですが、録画だけでは不十分かな。

秦編集委員:やはり、供述弱者の方を守るためには、弁護士の立会いしか解決できる方法がないんじゃないでしょうか。

小出医師:スポーツや将棋のようにハンディキャップをもらわないと、あるいは足さないと、同じ実力で戦うこと自体が不公平だと思います。そして、これは障害あるなしに関係なく、被告人になる人すべてが、知っておくべきことだと思います。相手は国家権力ですから。

──最後に「供述弱者」の調査報道を3年間続けてきた秦編集委員に聞きます。冤罪被害を生み出さないためにも、読者に伝えたいことはなんでしょうか。

秦編集委員:災害と一緒で、冤罪も突然身に降りかかるものなんですよね。災害は発生したら、防災の限界を超えない限りは対処できると思いますが、冤罪被害のターゲットとなったら、取り調べによって自分の日常が進まなくなってしまいます。現状だと弁護士の立会いもなく、防ぎようがありません。

司法の現場だけでなく、報道側にも大きな課題が少なからずあります。プライバシーとのせめぎ合いではありますが、事件発生後の司法への「監視」が必要不可欠だと思います。

このような冤罪を防ぐためには民主主義の手法を生かすしかありません。いまは情報化の時代。国家権力側が、国民に不都合なことを隠し続けるなんてことは、いつまでも続かないと思います。自分の身に起こらないとなかなか分からないことですが、まずはみなさんに司法の取り調べの現状やこういう問題を知ってもらうことですね。

秦さん
秦融編集委員

発達障害などをもつ西山さんたちだけが「例外」ではない。日本の司法手続きにおいて、誰しもが「供述弱者」になりうることを知ってほしい──。これが3人が共通して訴えるメッセージだ。連載「#供述弱者を知る」では、どのように西山さんが虚偽の自白に追い込まれたのか、元捜査員たちが当時の捜査をどう振り返るのか、真相をお伝えしている。

文=督あかり 写真=苅部太郎

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