経済・社会

2020.12.29 12:30

すべての人が「供述弱者」になりうる 冤罪をどう防ぐか|#供述弱者を知る


連載「#供述弱者を知る」は、西山さんに無罪判決が言い渡された直後にスタートしたこともあり、特に第1話(「私は殺ろしていません」獄中から無実を叫ぶ350通の手紙からが注目された。西山さんが獄中から両親に宛てた手紙や恩師や両親の話から、発達障害などが疑われる。そこで登場したのが、小出医師だ。転機となる20話(「発達障害」の物差しだけでは甘かった 元記者の精神科医の存在も、注目を集めた回だった。

「発達障害」の気づき いま振り返ると?


──小出さんは、7年間中日新聞記者として働いた後、医学部に入学して精神科医となりました。最初に、元同期の記者である秦編集委員から声がかかり、西山さんの獄中からの手紙を読んだ時にどう思いましたか。

小出医師:精神科医の目として手紙を読ませていただき、文章の表現や漢字の簡単な間違いなどが気になりました。手紙の他にも、子供のころの西山さんの様子などを聞いて、同様な方々を毎日の臨床でたくさん診ており、西山さんにもベースに何らかの「発達障害」があるのではないかと直感で思いました。まず、その印象を秦さんに話しました。

西山さん:私の手紙には、冤罪で闘っているからと言って苦しんでいることばかりを書いていた訳じゃありません。刑務所の中ではやることがないので、本を読むくらいしかない。だから、両親に本の差し入れをしてもらいたくて手紙を書き続けてきました。

だから今回、大変な賞を受賞されましたが、元になったと言われる私が書いた手紙は大して価値のあるものじゃありません。ですが、手紙から障害があることを見抜いた小出先生はすごいなと思います。

秦編集委員:郵政不正事件(2009年)で冤罪の被害にあった厚生労働省元次官の村木厚子さんもおっしゃっていました。勾留中は、本を読むことくらいしかない、と。

もう1点は、いまも感じますが、西山さんは筆まめですよね。瓢箪から駒じゃないですけれど、結果的に彼女の手紙から獄中鑑定につながり、冤罪を決定づけることになっていった。

西山美香
「人工呼吸器外し殺人事件」で、逆転無罪を勝ち取った西山美香さん

──獄中鑑定で小出さんは「軽度知的障害、発達障害、愛着障害」という3つの障害の診断をされましたが、日本の司法手続きにおいては、この点の理解の乏しさを感じました。どう変えていくべきでしょうか。

小出医師:本質的には、被告人の立場にたった時、発達障害だけでなく全ての人が「供述弱者」になりうることを知ってほしいですね。その上で発達障害をお持ちの方はさらに重荷を課せられる。

だから司法側の問題だけではなく、一般的にみんなが供述弱者について知るべきかと思います。そこで今回の冤罪事件はモニュメントのケースとして非常に重要な意味を持つと思います。

さらに、捜査する側もあらゆる可能性を疑わないといけない。私たちのような医者の立場でも、問診で患者さんのお話を聞いてさまざまな病気を思い浮かべないと、診断ができません。それと同様に、取り調べでも不自然な点があれば、障害の可能性を探る必要があると思います。

冤罪捜査
元新聞記者で精神科医の小出将則医師
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文=督あかり 写真=苅部太郎

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