「白雪姫」の変奏曲
女優では何と言っても、クールな面持ちでサイコキラーを演じるイザベル・ユペールが圧倒的だ。
メンタルを病んでいる女では『ピアニスト』や『エル ELLE』での演技が印象深いが、本作のグレタはあのジョーカーに通じるユーモアも感じさせる。
小柄で華奢な彼女の、緊迫した場面で唐突に飛び出す軽やかなステップ。クラシカルなコートやジャケットが似合い、白い顔にマスカラと真っ赤なルージュの目立つ顔もどことなくジョーカーっぽい。悪役ながら複雑なニュアンスを醸し出していて、非常に魅力的だ。
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このドラマはスリラーとしてよりも、「白雪姫」の変奏曲として見た方が面白いだろう。継母の魔女はグレタ、白雪姫はフランシス。
「白雪姫」の継母は老いた魔女なのに「世界一美しい」幻想にすがっている。グレタも本当はハンガリー人なのにフランス人と偽り、適当なフランス語を使い、パリに幻想を抱いている。ターゲットが「フランシス」という名だったのは奇妙な偶然だ。いずれにしても娘を支配する毒母であることは間違いない。
グレタが地下鉄に置いたバッグは釣り餌としてのリンゴであり、それを手にした時からフランシスの心身には毒が回ってゆき、最終的にこんこんと眠らされてしまう。古い木箱の中に閉じ込められた彼女は、棺に横たわる姫なのだ。
そもそもフランシスを演じるクロエ・グレース・モレッツのルックスは、あどけなく少女っぽさを残した愛くるしい白雪姫そのもの。
しかし警察官も、娘を心配しているフランシスの父も、父に相談された探偵でさえも、グレタという魔女の魔法には太刀打ちできなかった。毒母の呪いにかけられて息絶えそうな若い娘を救えるのは同じ娘だけだとすれば、これはサスペンス・スリラーの衣を纏ったフェミニズム映画と言えるかもしれない。
映画連載「シネマの女は最後に微笑む」
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