毒母と娘とシスターフッド。「度を超えた親密さ」のゆくえ

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ポーランドの国民的作曲家であるショパンが同性愛者だったという説をめぐって、最近ポーランド国内で論議が巻き起こっている。ショパンの恋人としてこれまで語り継がれてきた中で有名なのは、作家のジョルジュ・サンド。しかしその証拠はショパンの残した手紙からは発見できておらず、男性の友人に向けてのラブレターが数多く見つかっているという。

ショパンの同性愛者説が盛り上がったのは初めてではないが、いま論議となっている理由には、ポーランドが性的少数者に対して非常に風当たりが強く、アンジェイ・ドゥダ大統領の反LGBT政策に活動家らが反発を強めているという背景がある。

異性愛者であろうが同性愛者であろうが、ショパンの音楽の素晴らしさは変わらないと見るべきか。あるいは同性愛者であることが、彼の音楽に異性愛者の作曲家にはない独特の深みを与えていると見るべきか。どうせ議論するならばそうした観点があってもいいのではないだろうか。

ショパンのピアノ曲が印象的に使われている映画はいくつもあるが、今回はその中からちょっと特殊な例であるスリラー映画『グレタ』(ニール・ジョーダン監督、2018)を取り上げよう。

地下鉄の情景から始まる冒頭で、美しい音楽にのって映し出されるのは、コート姿のグレタ(イザベル・ユペール)の後ろ姿。次いで、仕事帰りのフランシス(クロエ・グレース・モレッツ)が座席に置き忘れられているバッグに目を留める。しかし、遺失物のカウンターは閉まっていたためそれを家に持ち帰る。

持ち主の徴を探してバッグの中を改め、住所と名前のカードを見つけたフランシスは、困っているだろう彼女に届けるべく家を訪ねる。表通りから引っ込んだ路地裏の、レンガの壁の古色蒼然とした家に1人で住んでいたのは、ピアノを弾く上品な初老の女、グレタ。

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娘と遠く離れているグレタに、母を亡くした悲しみから立ち直っていないフランシス。2人はそれぞれの心の空白を埋めるかのように、急速に親しさを増していく。しかしその親密さは度を超えていて、フランシスは恐怖に突き落とされることに……。

優しい人だと思って気を許していたら、とんでもないストーカーだったという心理サスペンスやスリラー作品は多い。
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文=大野左紀子

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