韓国の場合、検事たちの昇進は政治と深く関係している。秋美愛法相も検察幹部人事で、与党が地盤とする南西部の全羅道出身者を多数起用する一方、前政権で評価された検事や、現政権に刃向かう検事たちを次々と左遷させたことが報じられた。
先の関係者は「昇進できるかどうかが、政治に大きく左右される。検事たちは政治的な思惑から逃れられない」と語る。こうなってくると、韓国の政治家は自分に都合の良い検事を育てようとするし、検事も自分の昇進のために政治家を利用しようとする悪循環がずっと続くことになる。
最後に、文在寅大統領は、日本企業に損害賠償を求めた韓国大法院(最高裁)判決について、「三権分立があるため、判決に介入できない」という主張を繰り返してきた。ただ、今回のような事件が続くと当然、司法界のなかで韓国大統領府の顔色をうかがう忖度の空気が強まっていく。実際、韓国では、憲法裁の裁判官や大法院(最高裁)裁判官の推薦・任命などに大統領が関与できるし、朴槿恵前政権では徴用工訴訟を巡る大法院判決を遅らせるよう介入した事案もあった。
韓国の世論調査会社、リアルメーターが12月3日に発表した文在寅大統領の支持率は37.4%で、就任以来初めて40%を割り込んだ。ただ、司法界のなかにも与党寄りの関係者が多数含まれている。今回の事件を契機に、司法界の忖度の空気が更に強まることは想像に難くない。文大統領は自分で自分の首を絞めることにもなりかねない。
尹検事総長は公務員で、その任命権者は文大統領だから、韓国大統領府が全く介入してはいけないということではない。また、議院内閣制の日本と異なり、韓国ではすべての権力が大統領に集中する。それでも、三権分立は民主主義を支える大事な原則だ。
文大統領は12月1日、秋美愛法相と会談した。韓国では、「事態がここまで深刻化した以上、尹氏と秋氏の同時辞職でしか、沈静化を図る道はない」という声も漏れる。だが、ソウル行政裁判所は1日、秋法相による職務停止命令は不当だとする尹氏の訴えを認め、命令の効力を一時停止する決定を下した。尹氏はすぐに職場に復帰することで、辞職の意思がないことをアピールした。
韓国法務省は3日、尹検事総長に対する懲戒委員会の開催を4日から10日に延期すると発表した。同委は元々2日に開かれるはずだったが、これで2回目の延期になった。
事態は混迷の度を深め、仮に沈静化したとしても、深い傷を残すことになるだろう。
過去記事はこちら>>