大谷は「ジェンダーバイアスによって生じているピンクと自分の間の距離感を認識してもらった上で、ピンクを選択してもいいんだということを伝えたいと思いました」という願いを込めた。
「自分らしさを表現する上で、ルールがあるわけでもないのに選べない色があるのはおかしいですよね? 好きな色を選べるようになった方が楽しいはず。人がイメージできる選択肢の幅を広げるような取り組みを続けていきたいです」
開発メンバーの一人であるREINGプロデューサーのアボは、コミュニティメンバーと「Limitless Pink」の色を話し合う中で、次のように感じたそうだ。
「私がこれまでピンクを選んでこれなかったのは、私自身の意思によるものだったのだろうか? と思いました。今まで自分が選んできた色は、自分が選ぶより先に社会に選ばされていたのかもしれない、と」
ターゲットをカテゴライズしない商品開発
「REING Underwear」は発売当初、「セクシュアルマイノリティ向けのアンダーウェア」と紹介されたことがあったという。しかし2人は、特定の人を対象としたプロダクトではないと強調する。
REING代表 大谷明日香
「REINGは決してユーザーをカテゴライズしません」と大谷は言うが、それにはこんな理由がある。
「今まで、性別や年齢、国籍などの属性で人にラベルを貼り、カテゴライズするやり方は、ビジネスにおいて非常に有効に利用されてきました。女性は美しくいなさい、男性はたくましくいなさいというイメージを形成して、モノやサービスを売る方が楽だった。でも今は、『たくさん売れば成功』という時代ではありません。みんなが心地よく暮らしていくためには、もう少し主語を小さくすることが大切。正解もロールモデルもない時代だからこそ、作り手である企業側が、自分たちの作り方や届け方に意思を持って問い直す必要があります」
とはいえ、ユーザーをカテゴライズしない場合、ターゲットの設定が困難になるようにも思える。人にラベルを貼らずに、モノやサービスを作り、売っていくことは果たして可能なのだろうか。
「それはまさにこれからチャレンジしていかなくてはならないことです。しかし今は『女性用』『男性用』という概念自体が好まれなくなっていたり、性別問わず好きなモノを選びたいと願う人が増えているというデータが出始めたりしています。ターゲットは私たちの価値観に共感してくれる人全てですが、自社プロダクトに関してはマスに売るのを目指すのではなく、私たちの考えや商品の背景にある価値観を理解してくれる人を身近なところから増やし、じわじわと広げていきたいのです」