松田崇弥(中心)とアーティストの高田祐(右)=編集部撮影
ヘラルボニーアートの強み 「強烈な異彩」を採用
アーティストやアートワークの選定などのクリエイティブは社長の松田崇弥を中心に行っている。
彼は東北芸術工科大学を卒業後、小山薫堂率いるブランドデザイン事業を行う「オレンジ・アンド・パートナーズ」にて経験を積んだクリエイティブのプロだ。ヘラルボニーの目利き役となっているのだ。
「毎月のように作家さんとの契約が増えていますが、あくまで素敵だなと思う出会いがあったら契約させて頂くというスタンスをとっています。強烈なこだわりが素敵だな、と思える人と取り組んでいます」
障がい者の作品だからといって採用するのではない。知的障がいをもつ人が放つ「強烈な異彩」を感じたものを採用する。以前、Forbes JAPANの取材で、ヘラルボニーで扱うアートの特徴として、ルーティンを得意とする障がいの特性から、アートワークにもその規則性が現れ「繰り返しのデザイン」が生み出されていると、松田は答えている。その点から、緻密かつ、大胆なアートが生み出されているのだろう。
障がいがあるからこそ描ける世界観は、私たちに驚きや喜びを与えてくれる。
その一例を紹介したい。あなたは、この作品を見て何を感じるだろうか。また、何が描かれていると思うだろうか。
高田祐「迷路」=ヘラルボニー
松田が、この作品を手がけたNPO法人自然生クラブ(茨城県つくば市)のアーティスト高田祐に聞くと、こんな答えが返ってきた。
「黄色、赤、青、ピンク、緑の絵を描きました。シンデレラ城で時計が鳴りました。自分の作品が東京駅で見てもらえてうれしい」
実は高田は、大のディズニーランド好き。シンデレラ城の時計の鐘が鳴った時の喜びを表しているのだろうか。一際目を引く赤地の背景に、いくつもの四角が重なり合い、インパクトを与える。松田が「非常にコンセプチュアルな作品ですね」と向けると、高田は満足そうに笑っているようだった。
自身の作品が紹介され、笑みを浮かべる高田祐 =ヘラルボニー
上の写真の高田が座る背景にあるのは、小林覚の「数字」という作品。彼はある時から文字をすべて繋げて書くようになった個性を生かして、0から9までさまざまな数字を組み合わせてキャンバス全体に絵を描いている。このほかにも、それぞれの作品の物語に思いを馳せながら鑑賞するのも楽しい。
現在、JR東京駅のほかでも、名古屋のテレビ塔周辺でリニューアルされた公園「ヒサヤオオドオリパーク」の一角で、12月27日まで「サステナブル・ミュージアム」を開催しており、ヘラルボニーは、その名を全国区へと広めている。松田はこんな思いを口にした。
「障がい者、というワードが『欠落』といったイメージで語られることを打破したいと思っています。先日、名古屋の展示会場で『障がい者が描いてるのになんでこんなにグッズが高いの?』という言葉を受けました。障がいがある=安いというイメージがまだまだ根付いていることを実感した出来事です。『知的障害のある作家が描いてるからこそ高いんだね』と言われるような世界観で、社会を変えていきたいと思っています」
高橋南「風のロンド」=ヘラルボニー
土屋康一「無題(葉っぱ)」=ヘラルボニー
八重樫季良「(無題)」=ヘラルボニー
着実にこれまでとは違う世界を描き始めているヘラルボニー。2021年には、とある空港でのアートの展開や百貨店への出展なども進めているという。
福祉支援にとどまらず、強烈なアートを世に送り出しているから素晴らしい、と言われる未来へ向けて。彼らの挑戦は続く。
*アップサイクルアートミュージアムについて詳しい情報は、こちら