コピーライターとしてプロジェクトに関わった、自身も脳性麻痺をもつエルダー・ユスポフ氏が登壇すると、観客席の全員がスタンディングオベーションで賞賛した。
このキャンペーンを行なったのは、イケア・イスラエル。そこから世界に広がり、関連商品の売上は33%アップを記録したという。
障害者のためのアダプターを開発
イケアのミッションは、「より良い毎日を、多くの人に」というものだ。購買しやすい価格で、使いやすく、優れたデザインの商品を提供しようとしている。
しかし、障害のある人たちにとって、多くの家具は決して使いやすいものではない。例えば、ソファから立ち上がるのにもひと苦労だし、ベッドサイド・ランプのボタンを押すのも大変で、ドアを開けるのも簡単ではない。
障害者用の家具を買うことはできる。だが、その価格は普通の家具の2倍以上もし、デザインの選択肢も非常に少ない。そこで、イケア・イスラエルが考えたのが、13の既存商品に付けることで障害のある人が使いやすくなるような「アダプター(Ad-on)」の開発だった。
例えば、ソファの脚にはめることで座高を高くし、障害のある人でも立ち上がりやすくするアダプター。ベッドサイド・ランプのボタン部分に装着することで格段に押しやすくするアダプター。あるいは、引き手が小さく開けにくいドアに付ければ、肘を使って開けることができるようになるアダプターなどだ。
「ThisAbles IKEA - Cannes Lions 2019 Winners」
この取り組みには、次の3つのポイントがある。
1. アダプター自体は売り出さず、ウェブサイトを通じてデータを配布し、誰もが3Dプリンターで製作できるようにした(結果、127か国4万5000人がデータをダウンロードした)。
2. アダプターの開発に際し、非営利団体と協力、障害がある人にも参加してもらい、前出のエルダー氏をスポークスパーソン(広報担当)として起用した。
3. データをフリーで公開することは、一見イケアに「得」がないように見える。しかし、アダプターはイケアの既存商品用のものであり、結果としてイケアの商品の購入につながる。
「ソーシャル・グッド」と言われる社会にとって良いことを実現し、ブランドの評判を高めながら、しっかりとビジネスの「果実」も手にしているわけだ。
この1. のオープンソース的なふるまい、そして2. に見られる「共創型」のプランニングは、まさにイマドキの手法だと言える。