それは、著者が性的マイノリティ当事者の実態を広く知らしめようと乙武洋匡氏に依頼して生み出した小説「ヒゲとナプキン」の執筆過程で、「もっと主人公を痛めつけてください、それでないと当事者の苦しみは表現できないから」とお願いし続けるところに現れている。
それでも本書がたくさんの苦しみの中にも終始明るい読後感を得られるのが、杉山自身の明るいパーソナリティに加えて、主人公を支える素敵な仲間たちの存在だ。
透明感があり真っ直ぐでブレないパートナー。とことん厳しく育ててくれたアルバイトの先輩。ロールモデルとしての乙武。父性を感じさせる盟友、松中ゴン。渋谷区長として同性パートナーシップ条例を実現させた長谷部健。活動を金銭的に支援し続けたチェリオ菅大介社長。そして何より、「うちの娘と別れてください」といいにきた彼女のお母さんに対して、「うちも同じようにフミノのことが大事ですし、誰に恥じることもないと思っていますから」と逆に啖呵を切るお母さん(若い頃の写真が掲載されているが、とっても素敵!)。
「トランスジェンダーの元女性が、パートナーの女性と共に、親友であるゲイ男性から精子提供を受けて子供を授かり、3人で育てる」という、新しい家族のカタチ。仕事、恋愛、家族……真の意味での「ニューノーマル=新しい常態」について思考をひっくり返されるくらい考えさせることだろう。
そしてこれが「普通」と思えるくらいの感性が、これからグローバルで生きていく世代にとっては必須となるのではないか。