──家電事業をメインとしてきたパナソニックが、スポーツ事業を手掛ける意義とは何なのでしょう?
パナソニックがスポーツ事業を成功させれば、他の企業が次の一歩を踏み出すきっかけともなりうるでしょう。われわれが専門とする家電事業であれば、もちろん市場競争が発生しますが、スポーツ事業はそうではない。すべてのスポーツにおいて、特定のチームが強くなりすぎればリーグが崩壊しますからね。
しっかりと事業を成長させながら、経営の方法論を示すことで、他の企業にスポーツ事業への「希望」を与えることがわれわれの役割ではないかとも思っているのです。
──もちろん、それはパナソニック自体にも「希望」をもたらすわけですね。
スポーツ分野が有望か否かで言えば、もちろん有望だと思っています。けれど、市場が大きいから挑むわけではありません。パナソニックが手掛けるエンターテインメントに新しい可能性を見出すために本気で向き合うのです。
われわれがいままで関わってきた広義のエンターテインメントと言えば、音楽から始まり、映画にも広がり、いまはゲームと、こうした分野のさまざまなハードウエア事業に取り組んできました。
ですが、直接的にコンテンツに携わったり、消費者の方々にコンテンツによる作用を起こせたりしてはいません。われわれは、コンシューマー向けのビジネスを行っているにもかかわらず、コンシューマーに突き刺さるコンテンツをこうした分野では持っていなかった。ここは重要なところです。
例えば、エンターテインメント企業であるソニーさんは、ハードウエア分野の大手でありながら、音楽出版のトッププレイヤーでもあり、映画の興行主としても世界最大規模です。ゲームのパブリッシャーとしても世界的に名高い。われわれパナソニックも、ハードウェアだけでエンタメ業界に向き合うステージから脱却しなければならないフェーズにあります。
これまでのパナソニックは「安心・安全」という過去思考なイメージで固められていました。だからこそ「やったことのない、何が起こるかわからない」、そんな未知なる可能性を生む舞台としてスポーツを重要なコンテンツ事業として選んだのです。スポーツという分野はわれわれのブランドが持つ企業としての強みと、これからの在りたい姿、市場への構え、実にこの3つが重なっていたからこそ選んだ領域なのです。
──未来の新しいパナソニックの姿、それをスポーツ分野で見出すわけですね。今回のプロジェクトで、片山さん自身が目指すところはどこでしょう。
これから20年、30年先、私自身がパナソニックからいなくなった後に、「あのとき、パナソニックがスポーツを始めたのが大きな転機になった」と言われるようにしたいと私は考えています。
私はどんな事業に関わるときも、変わらずに考えるのは、自分が在任中に結果が出ないような長期的な取り組みを先んじて始めるということです。自分の目の前にあってすぐに結果が出たものなんて、過去の人がやってくれたものをやるかやらないか決めただけで、そんなものは結果が出て当たり前なのです。
でも、10年後しか絶対に結果が出ないとか、そういうものを誰かが始めないと、もう永遠に始まらないじゃないですか。時間がかかるものこそ、いち早くやる必要があるのです。
着地目標を示すために、数字的な目標を挙げましたが、変化を少しでも早く感じてもらえるような革新、組織のメンバーたちがよりプロジェクトにコミットしてくるような空気感をつくる。それができれば、私自身のなかで、このプロジェクトは順調に進んでいると言えるでしょう。