われわれはスポーツ事業を運営するにあたって、選手たちにセカンドキャリアを用意することも大きな課題としています。なぜなら人生は非常に長い。選手たちがセカンドキャリアを気にしながら、プレイに没頭できずにいれば、観客との間に感動などはなかなか生み出せないと考えているからです。
それにはプレイしている間の給与ベースをもっと上げていくこと。そして、選手たちがセカンドキャリアを気にせず、試合に没頭でき、感動を生み、われわれの取り組みでしっかりと収益を上げる。そうやってまた新しい才能を持った選手が入ってくる。この循環こそが、持続可能なスポーツ事業のあり方だと考えています。
──その達成には、デジタルコンテンツをどう活用するかが鍵になりそうですが、どこに注力するなどのプランはありますか?
デジタルコンテンツ、特にバーチャルに対しての試みは、2つの領域で考えています。
1つは、インターネット上で発生する不特定多数との交流です。
例えば、先日、ラグビーのワイルドナイツ所属の稲垣啓太選手とバレーボールのパンサーズ所属の清水邦広選手がYouTube上で対談をするイベントを開催しました。バーチャル上での対談となると、デジタルコンテンツを視聴者が一方的に消費する形なので双方向的な関係性は生まれません。
そこで、そのような不特定多数に広い範囲で伝わるコンテンツを、さらに深堀りしていこうとしています。考えているのは双方向的な消費者とのマッチングがあるコンテンツです。
例えば、バーチャル上で選手からティーチングを受けられるようなコンテンツができたらどうでしょうか。ラグビーやバレーボールなど専門的に教えられる人が少ないスポーツのほうが、より需要は高まるはずです。
いままでは1度に数名しか指導が受けられなかったスポーツも、バーチャルを介することで100人以上同時に受けられるようになれば、単純にプレイ人口自体も増えるでしょう。そういった双方向のデジタルプラットフォームを検討しています。
また、そういったプラットフォームを成長させていくためには、ティーチング側の選手たちのスター性も高めていかなければいけないと考えています。選手が有名になれば、自ずとプラットフォームのバリューも上がる。いわゆるマイナースポーツと呼ばれるジャンルの選手たちの中からも、着実にスターを生み、世に出していくこともわれわれの役目だと思っています。
スポーツ事業がつくり出すパナソニックの未来
──スポーツ事業の数値的な目標設定として、10年後の2029年度に年商150億円、周辺を含め300億円を掲げられていますね。
10年後には、サッカーは野球を上回るメジャースポーツになると私は考えています。そのため、サッカーを中心に年商で100億円近い数字を達成し、さらにその半分程度の数字をデジタルプラットフォームでの収益としても出していかなければ、この事業は継続できないと考えています。年商150億円は、そういった目線で出した目標値です。
また、周辺を含め300億円という目標数値については、現状のコンテンツ収益でも、物販の収益がデジタルコンテンツの収益の2倍近く出ているためです。目標として物販と同等の収益を目指していきたい。今回の数値的目標では、仮に達成に至らずとも、持続可能な事業化の目処を立たせることが重要となります。
現状、中長期的に見た時にどのスポーツ領域も、人々の関心やバリューに反してマーケットの存続は危機に瀕しているでしょう。未来を不安に思わなくてもいいような、良いループをつくっていくことが最大目標です。