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2020.10.29 20:00

「アートのある暮らし」の理想が見える。ロルフベンツで奈良祐希の個展


奈良は家具からインスピレーションを貰い、それを作品へと昇華させた。例えば「ロルフベンツ 8480」というコーヒーテーブルは、輪切りにした木材に深い割れ目を入れている。ここに奈良は、一部だけ角がぐっと伸びたアシンメトリックな作品を合わせている。


「ロルフベンツ 8480」の切り込みが、インスピレーションを引き出した。

「このテーブルを見た時に、Bone Flowerの一部が徐々に伸びて、テーブルが割れたという自然発生的な物語を思い浮かべました。また新作家具「Liv」の綺麗に反射するテーブルの天板を水盤に見立てて、蓮のような作品を考えました。ロルフベンツの家具は、ただの展示台ではありません。作品と家具が恋愛しながら、持ちつ持たれつの関係になっているのです」

本来アートは、作者の内なる創造性を形にするものだ。しかし今回はロルフベンツの家具を作品のインスピレーションの源にしている。異例なようにも感じるが、奈良のユニークな経歴を聞くと、それも納得できる。

彼は350年を超える歴史を誇る大樋焼の家系に生まれた。そして学生時代は建築を学び、数カ月前までは有名建築事務所に勤務する傍ら、陶芸家として活動していた。つまり彼は“建築家であり陶芸家でもある”のだ。


アートを難しくとらえ、距離を感じてしまうことを危惧する

「陶芸というと土をこね、勢いで一気に作品を作っていくというイメージがありますよね。でも僕は膨大なスケッチを描いてイメージを見つけた後に、建築でも用いる3DCADなどの最新テクノロジーを使って形をデザインし、一枚一枚、丹念に手作業で作られた粘土の板からパーツを切り出し、慎重に組み上げていきます。そのため作品をどこに飾るかという要求にも応えることができるのです。

建築の場合はまず敷地があって、そこに最適な建物を考えますよね。それと同じです。今回は家具という敷地があり、そこに最適な作品を建築家としての視点から空間的に考えることができた。家具とアートを結びつける上で、自分の制作プロセスとの相性は、とても良かったですね」

アートは作品が主体であり、どう飾るかという意識は希薄だ。しかし奈良は、作品を生活の中にどう取り入れるかまで意識したいと考える。


華やかに広がる作品は、「蓮」がモチーフ。ガラス天板の反射を水盤に見立て、詩的なイメージを膨らませた
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文=篠田哲生 写真=江藤義典

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