秘訣は「エモーショナルボンド」
新日本プロレスリングは2000年代に赤字に転落し、倒産の危機に直面したことがある。しかし、2018年に同社CEOに就任したハロルド・メイはみごとに立て直し、一昨年、NYマディソン・スクエア・ガーデンの1万6000席をわずか19分で完売させたと言われている。
見出した突破口はデジタルとグローバル。スポーツの魅力をいかにして伝えるか。幸い、プロレスに言葉はいらない。若い女性客や子供、外国人のファンを全体の半分以上まで増やした秘訣を聞くと、メイはこう語り始めた。
「例えば、スター・ウォーズは2時間の映画です。でも、戦闘シーンは最後の10分くらいですよね?残りの1時間50分はそれに至るドラマです。リングの決闘も10分かもしれません。でも、どうしその試合に至ったのか、どんな準備があり、怪我をどう乗り越えて、どんな葛藤があったのか、などエモーショナルボンド、つまり感情移入ができるかどうかが応援を呼ぶ秘訣なのです」
感情の結びつきこそ、スポーツの醍醐味である。この最大化が新日本プロレスの成功の秘訣だったのだ。
エモーショナル・ボンド。感情の結びつきは、日本人だけでなく、アメリカ人でも、オーストラリア人だったとしても、文化も言葉の壁も超える。それは世界中の消費傾向が「モノからコト」へとシフトする中で、日本のスポーツが海外へと打って出るための武器だ。
ホークスのように、既存アセットの見直しとブラッシュアップ、そして一気通貫させた総合力による総合エンターテイメント企業への変貌は、多くの伝統的なスポーツ興行主にとっては大いに参考になる事例だろう。
また、SC鳥取のような視点を変えたことによる新たな価値の創造、そして新日本プロレスリングのグローバル進出の鍵となった、スポーツの魅力を伝える方法論の発見。もちろん、それらの着想を実現するための企業の努力は欠かせないものの、武器を見つけ、磨くことで突破口は開かれる。Forbes JAPANでは引き続き、新しいスポーツの価値を生み出す挑戦者たちに注目していく。