こんな携わり方も。スポーツ業界の「新しいキャリア様式」

PLAYNEW代表の山内一樹

PLAYNEW代表の山内一樹

街の活性化、新たな選択肢の提案、ユニバーサルな社会の実現……。

勝ち負けだけではない、スポーツの魅力に惹かれ活躍する人々が増えている。

※この記事は、現在発売中のForbes JAPAN10月号「スポーツビジネス新時代」特集に掲載されています。

異分子融合で「社会に良い」クラブへ ── PLAYNEW


オープン直前の渋谷・ミヤシタパーク前。撮影が終わると、PLAYNEW代表の山内一樹は「通学路だった場所の景色が変わっていくのはわくわくしますね」とつぶやいた。

山内は2019年に同社を設立。東京都2部リーグに所属するサッカークラブ、TOKYO CITY F.C.の運営を主軸に、マーケティング支援やクリエイティブ制作などサッカー以外の分野でも事業を展開する。その理由を聞くと、山内は「渋谷を盛り上げたくて」と即答する。山内は中学から大学まで渋谷に通学していたこともあり、多様な文化や価値観が交差し高い熱量が渦巻く渋谷に人一倍の思い入れを持つ。

「サッカークラブは渋谷活性化のための手段にすぎない」と山内。「私たちはクラブ経営を行なう企業ではなく、コンテンツ開発カンパニーです。企業経営の根底にあるのは渋谷のまちづくり。だから私たちは、TOKYO CITY F.C.を重要ないちコンテンツと捉え、他分野とかけ合わせることでシナジーを生み出していくことを目指しています」


渋谷のクラブ「WOMB」で開催されたプロジェクションマッピングとフットサルを掛け合わせたイベント。NIKEとのコラボで実現した

その姿勢は、PLAYNEWの組織体制にも表れている。現在、山内を含む社員5人のほかに20人ほどが副業的に関わっている。専門分野はもちろんバラバラ。各々が本業で培った知識やスキルを生かし、お互いの得意領域をかけ合わせながら個々が積極的にクラブ経営に関与する。

なぜPLAYNEWは多様な人々を惹きつけるのか。それは「ただ強いだけのクラブをつくる気はない」という山内の想いに共鳴しているからだろう。「私たちの企業ビジョンは“Football for good”。強いだけ、儲かるだけではだめ。能動的に動き、社会にどれだけいい影響を与えていけるかが重要なのです」

コロナ禍で売り上げは3月時点の昨年比で半減。しかし収入をクラブ経営だけに依存していないため、年間予算で比較すると今年は昨年の約3倍の数字が見えてきたという。渋谷で生まれた「ソーシャルグッドなサッカークラブ」はまだ始まったばかりだ。

やまうち・かずき◎平成元年生まれ。2007年からJクラブでフロントスタッフとして現場経験を積み、09年大学スポーツチャンネルの創業に関わる。14年にTOKYO CITY F.C.を立ち上げ、19年に法人化。

パラスポーツだからできる障がいの有無を乗り越えた共生 ── STAND




「障がい者を晒し者にしてどうするつもりだ!」―2003年、伊藤数子は一人の男性に罵声を浴びせられた。企画会社の経営者として、パラスポーツ大会のネット生中継をしていた会場での出来事だ。彼らが生き生きとスポーツをする姿を伝えて何が悪いのか。伊藤の心に火がついた。

「障がいの有無に関わらず力を発揮して、明るく豊かに共生する社会を実現したい」。ユニバーサル社会を目指し、パラスポーツの魅力を伝えるため、伊藤は二足のわらじで NPO法人STANDを立ち上げ、約20種の競技をネット中継するポータルサイトを開設した。

「パラスポーツは障がいのある人だけのものではありません。ブラインドサッカーや車椅子バスケットボールなどは、障がいのない人も楽しめる開かれた競技」。体育館などのクローズドな場所だけでもなく、開かれたショッピングモールでもイベントを催した。

「競技を見て参加する。それを繰り返し、見慣れることで『自分たちとは違う』という障がいに対する違和感を払拭できるはず」。自国でのパラリンピック開催は、個人だけでなく、企業やスポンサーの関心が高まる社会変革の絶好の機会。社内研修、講演などの依頼は増えた。


パラスポーツ体験会。障害のある人、ない人がともにプレーすることで、お互い「慣れる」ことが重要と伊藤は説く
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文=田中一成、丹由美子 写真=平岩享

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