きっかけは、僕がフォトグラファーとしてこの事態を記録したいと、緊急事態宣言下の東京の夜を撮影した写真を収録した写真集『Night Order』を上梓したことだ。制作の過程で、写真という表現や写真集というメディアについて否応なく考えさせられた。
誰もが気軽に楽しめるようになり、かつてなく民主化されている写真表現。デジタル時代に逆行するような、紙の写真集というメディア。手軽で接続が容易なものが世界を飲み込んでしまうように思える一方で、アナログで手触りを感じられる表現やメディアの魅力もあるのではないか。
初回に続き、今回は編集者の九法崇雄氏に話を聞いた。「カルチャー」を軸に、企業のブランディングやイノベーションを手がける「KESIKI INC.」のパートナーや「WWDジャパン」エディトリアルアドバイザーをつとめる九法氏がコロナ禍に考えていたこと、これからの表現とメディアとは──。
個人も、企業もメディア化、ジャーナリスト化する時代
──「PRESIDENT」副編集長、「Forbes JAPAN」編集次長兼ウェブ編集長などを経てKESIKIを立ち上げ、より俯瞰的にメディアと向き合っている九法さんから見て、今、メディアにどんな変化が起きているのでしょうか。
あくまで僕が感じていることとしては、大きく三つの変化があると言えます。
一つは、多くの人が感じていることだと思いますが、「1億総メディア化、1億総ジャーナリスト化」です。世界中で同時に起きている現象なので、77億人ですね。SNSやnoteなどの台頭で、みんながメディア化するようになりました。その「質」はともかくとして、世の中の出来事や言説について、みんながジャーナリストのようにネット上で論じるようになっています。
同様に、ここ十数年で起きている大きな変化として挙げられるのが、企業もメディア化、ジャーナリスト化しているということです。これまでメディアやジャーナリズムが担ってきた役割ですが、企業側も社会に対するスタンスを示し、世の中に投げかけるようになってきて、米国企業で特に顕著です。
例えばパタゴニアは、野生の魚や川を守ることをテーマにした「ARTIFISHAL(アーティフィッシャル)」をはじめ、これまで数本のドキュメンタリー映画を制作しています。NIKEも「Black Lives Matter」運動をサポートするメッセージを発信し続けていますよね。
企業が雑誌をつくるケースも増えています。スーツケースのAWAYや寝具のキャスパーなど、D2C(Direct to Consumer)と言われる企業でその傾向は顕著ですね。ユニクロを運営するファーストリテイリングも、「POPEYE」の編集長だった木下孝浩さんを執行役員に迎え、自ら雑誌をつくって発信しています。こういった動きにより、消費者や社会のパーセプションを変える役割を担ってきました。