中国の王毅外相は2020年9月、「グローバル・データセキュリティ・イニシアティブ」を打ち出した。その狙いは明らかに、米国のトランプ政権による、中国テクノロジー関連企業の封じ込め方針を牽制することだ。
だがこの構想は、具体的内容に乏しいうえに時機を逸している。一部のテクノロジー企業株をターゲットとしている投資家は注意すべきだろう。
トランプ米大統領とその政策顧問たちは、ほぼ2年近くにわたって、中国の大手通信機器メーカー、ファーウェイの息の根を止めようと躍起になってきた。トランプ政権内のタカ派は、5G技術で世界をリードするこの中国企業を、米国の国家安全保障上の脅威とみなしている。次世代通信ネットワークである5Gの導入が世界各国で一歩進むたびに、ファーウェイの脅威が増すという見方だ。
トランプ大統領は2018年、米国内でファーウェイが通信機器を販売することを禁じる大統領令に署名した。それから1年後には、ファーウェイとその関連会社が米商務省の「エンティティリスト(Entity List)」に登録された。これにより、米国の企業がファーウェイに製品やサービスを販売する際には特別な許可証が必要となり、主要部品の供給が実質的にストップする事態に至った。
2020年5月になると、商務省はさらに一歩踏み込み、ファーウェイが米国の技術やソフトウエアを用いて米国外で半導体を設計・製造することについても禁止する措置を取った。
こうして、かつては全世界での売上が1000億ドルに達し、飛ぶ鳥を落とす勢いだったファーウェイは、今や生き残りに必死という状況だ。
この成功に力を得たホワイトハウスは、さらに攻撃対象の幅を広げた。同様の理屈と手法を用いて、マイク・ポンペオ米国務長官が次の標的としたのは、「TikTok」を運営するバイトダンスと、極東で最も使われているとされるソーシャルメディア・プラットフォーム「WeChat」を開発したテンセント・ホールディングスだ。どちらも、ファーウェイと同様に、中国でもトップクラスの大企業だ。
米国務省が8月に開始した「クリーンネットワーク(Clean Network)」プログラムは、市場で圧倒的優位に立つ中国企業を、米国及びその同盟国によって使用されるすべてのインターネットインフラから締め出すことを目的としている。狙い通りに進めば、このプログラムがインターネットを分裂させるのは必至だ。
皮肉なことに、国際社会を逆方向、つまり統合させる方向に動かそうとして取り組んでいるのは、今や中国の方だ。冒頭で触れた中国のグローバル・データセキュリティ・イニシアティブは、ネットワークに関するオープンで根拠に基づいたルールづくりと、それを可能にするためのサプライチェーンの開発を呼びかけている。
中国はこれまで、比較的小規模だった自国企業を成長させるため、数十年にわたってルールを自国に有利になるように操作してきたことを考えると、これは大きな転換だ。これまでの中国では、自国企業との合弁事業を強要することにより、米国やヨーロッパの提携先から知的財産権を吸い上げてきたケースが多い。
こちらの方が、より大きな問題だ。
中国高官は、今になって公正さや管理監督に関して正論を述べているが、これは、強引な戦術から中国企業を守ろうとする方便でしかない(中国は自国企業の成長のために、同様の強引な戦術を採ってきた)。ウォールストリート・ジャーナルが指摘するように、中国高官は、中国の勢力拡大を妨害しているとして米国を非難している。