ダイレクトリスティングで誰もが上場できるというわけではなく、向いている企業と向いていない企業があります。株の販売をサポートしてくれるアンダーライターがいないため、企業自身の魅力で勝負しなければならないからです。具体的には、ダイレクトリスティングでの上場に適している企業には以下の3つの特徴があります。
1. 知名度が高い
2. 理解されやすいビジネスモデル
3. 差し迫った資金ニーズがない
まとめると、投資銀行などに宣伝してもらわなくても注目を集められるくらいの認知度が必要だということです。実際、 SpotifyやSlack、Asana、Palantirはいずれも上場前からすでに高い知名度を誇っていました。
ただし、資金ニーズに関しては最近になって2つの重要な進展が見られることも特筆に値します。1つ目は、今は未上場市場にも投資資金が潤沢にあるという点です。昔は50億円以上のラウンドで調達しようと思っても、上場する以外にあまり選択肢がありませんでした。当時のIPOは株の流動性を上げるためだけはなく、単純に資金を調達するという点でも重要なスキームだったのです。しかし、米国ではこういった事情はもはや時代遅れで、日本でも同様なトレンドが進みつつあります。
2つ目の進展は、以下の通りです。
いずれはダイレクトリスティングでも資金調達できるようになる
今年の8月下旬、ニューヨーク証券取引所(NYSE)がダイレクトリスティングで売却できる株式に関わる改正案を申請し、米国の証券取引委員会(SEC)によって承認されました。この改正案が実現すれば、ダイレクトリスティングでも新株発行によって資金を調達できるようになります。
ただし、承認後すぐに機関投資家協議会(CII)が当改正案に対して抗議を訴え、これをSECが受け入れたので、現在は保留となっています。
機関投資家の多くは従来の上場システムから恩恵を受けているので、反発があるのは仕方ないのかもしれません。しかし、ダイレクトリスティングで資金調達を行うという可能性に気づいてしまった以上、いつか実現するのはもはや必然で、認可まで時間の問題だと思われます。
日本におけるダイレクトリスティングの可能性
この分野において世界有数の識者であるフロリダ大学のJay Ritter教授が世界中から集めたデータを見ると、ある興味深い知見が浮かび上がってきます。これには慶應大学の金子隆氏や東京理科大学の平木多賀人氏の研究結果も含まれているのですが、それによると、実は日本のほうが公募価格と初値の乖離が深刻だというのです。
(1980〜2019年における日本の総IPO数(青・左軸)および公募価格と初値の平均乖離率(赤・右軸)の推移)
日本と米国の株式市場では様々な部分で事情が異なるので、日本のスタートアップもダイレクトリスティングで上場するべきだと言っているわけではありません。しかし、米国と同じ初値の高騰現象が起こっていることを考えると、日本でも適用できるケースがあるかどうか話し合っておいたほうがエコシステム全体にとっても良いのではないでしょうか。
そこで、この記事を読んでいる読者の皆様からもご意見を伺いたいのです。日本でもダイレクトリスティングを実現すべきなのか? 何が障害となっているのか? 米国とはどういった部分が違うのか? ぜひ、メールもしくはTwitterでご連絡ください。