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2020.10.14

なぜAsanaやPalantir、Spotify、Slackは伝統的IPOを回避したのか?


従来のIPOで最も問題視されているのが、公募価格が適正な水準に設定されていないことが多いという点です。上場初日に株価が急騰したほうが企業にとってもプラスになるはずだと誤解されがちですが、実際は「そもそも公募価格が低すぎた」ということの裏返しに過ぎないのです。

上場準備のサポートとして、投資銀行は顧客リストにある投資家から需要を探り、それらの需要を勘案しながら公募価格を決定します。公募価格を決定する上で投資銀行が特に重視するポイントは、上場後に全IPO株を売却しきれること、そして「安定した」投資家基盤を作れることの2点です。この場合の「安定した」投資家とはつまり、T. Rowe PriceやFidelity、Ballie Giffordなどの大手機関投資家のことです。

近年、投資銀行の主要顧客でもある大手機関投資家を優遇するあまり、IPOで不適切な価格設定や株式の配分を行っているのではないかという懸念が高まっています。

下のグラフからわかるように、ドットコムバブル期を除けば、米国ではIPOの公募価格と初値の乖離が年々悪化しています。9月3日時点までに、2020年のIPOではなんと公募価格を平均で40%も上回る初値がつけられました

乖離が広がるにつれて、最近の新規上場企業は買い手を優遇しすぎている、そのせいで既存投資家の持ち株を必要以上に希薄化させているという不満の声も広がってしまいました。実際、公募価格が本当に適正であれば、もっと少ない発行株式数でも同じ資金調達額を達成できたはずなのです。


(米国のIPOの公募価格と初値の乖離率の推移)

ダイレクトリスティングのデメリット


通常のIPOでは主要投資家と事前に株価の交渉が行われますが、ダイレクトリスティングでは市場の需要と供給のみによって株価が決まります。

例えば、株の流通量は供給側である従業員や既存株主の決定に大きく左右されます。上場日に誰も持ち株を放出しなかったら、当然ですがなんの取引も成立しません。また、仲介役として投資銀行などを雇っていないので、持ち株の売却に対するサポートや保証、売り込み・宣伝、長期投資家の斡旋などのセーフティネットとなるサービスを一切受けることができません。

つまり、売り手側に対してもなんの保証もないのです。こういった事情から、株価のボラティリティが非常に高くなってしまうおそれがあります。
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文=James Riney

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