例えば、あえてアポなしで出かけてみる。相手が留守。でも、「そこから面白いことが始まる」と所さんは言うのです。せっかくだからと近所をまわり、近くにある川を眺め、このへんで何か買っていこうということになる。そこを目指したわけではないのに、そこにいることが大事なのだと。
「これが楽しいんですよ。新しい物語ができるじゃん。便利さを楽しさだと勘違いしてる人が多いけど、実は、不便さこそが幸せにつながるの。世の中がいろいろ見えるじゃない。いろんな経験もできる。痛い目にも遭うし、暑さや寒さや四季も感じる。そういうものを、世の中の人は才能と呼ぶのよ」
しかし、多くの人は、所さんの考えるところとは逆を行こうとします。面倒を避け、思い通りを求め、汗をかかず、スマートなことばかり求めようとしているのです。
「汗、いいのに。生きてる感じがする。僕なんか、わざわざ炎天下で草むしりするもん。車のワックス掛けするもん。汗出るよ。だらだら流れる。限界になると塩が欲しくなったり。でも、生きてる実感がする。世界を感じる。僕は絶対、人に任せない」
便利さばかりを追い求め、いつしか人は自分で動こうとしなくなり、どこでも携帯電話ばかりを眺めるようになってしまったのかもしれません。
「1日1日、違う手応えが欲しいから。昨日と違う今日を迎えたいから。でも、あれは毎日の文章が違うだけで、違う人生なんかじゃない。昨日と何も変わっていない。そういうことにそろそろ気づかないといけない。結局ね、自分の考えひとつなのよ。人生をつまんなくしてるのは、自分なの」
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人生を楽しく生きるには、結局、自分自身の意識を変えるしかないと所さんは言います。それは、会社も仕事も同じだと。
「お金がなければ楽しいことはできないと勝手に思い込んでる。アンタはお金があるから言うんだと思うかもしれないけど、僕はお金がなくてもそう言うから。だってそうだもん。ゴミ捨てだって楽しいもん。ベランダのプランターの土づくりひとつで楽しめるもん」
何事も楽しむという姿勢が、所さんの幸せに生きる日々を支えている。コロナ禍で思うようにいかない日々だって、果たして本当に辛いのかどうか。
「不安になっても、いいことなんてない。誰も近づかないから。だから笑うこと。不安でも堂々とする。そして、隣の人と比べない。いつも自分だけを見つめる。僕はデビューの頃から自分が世界でいちばん幸せだと思ってた。給料が7万円だったときも幸せだった。給料だと思えば安いけど、小遣いだと思えば7万円はすごいじゃん(笑)」
不安なときでも笑いを忘れず、自分を見失わない。コロナ禍にあっても、これは大切なことです。いまは、目の前にあるちょっとした幸福感や生きている実感を、多くの人が忘れているのではないでしょうか。所さんの次の言葉が印象的でした。
「大きな目標ばかりに目がいってる。幸せや才能の芽は、そのへんにたくさん転がってるのに、みんな見えてないだけなんだよ」
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