皇居の緑を望むラウンジエリア
「かつて、系列内のどのホテルに行っても同じ名前のレストランとバーがあった時代があったが、今は、その土地らしさを表現できるレストランであることが重要。美食は、地元の人たちがホテルを利用する時の入り口となる存在」と位置付けるデブリト氏。地元の人がホテルに足を運ぶきっかけにもなる魅力あるレストランの重要性を感じているという。
そんな本気度が感じられるのが、2つのレストランと、ホテル最上階に位置するラウンジ・バーだ。
世界のラグジュアリーを知り尽くしたゲストたちには、最高級の美食が欠かせないと、満を持してオープンしたのが、「エスト」だ。英語の最上級「est」でもあるこの名前は、「エモーション(感情)・シーズン(季節)・テロワール(土地)」の頭文字から付けられたもので、日本中からよりすぐりのものを提供するという思いが込められている。
厨房を取り仕切るのは、ミシュラン二つ星「キュイジーヌ[S]ミッシェル・トロワグロ 」で長年エグゼクティブシェフを務めた、ギョーム・ブラカヴァルシェフと、デザート担当として8年間コンビを組んできたミケーレ・アッバテマルコシェフ。
ディナーの前に、ドリンクメニューを開いても、「日本の風土を表現する」という心意気は読み取れる。最初のページには日本のワインが並び、水は国産のものだけを取り揃える。
「フランス料理のテクニックを使って日本の風土を表現する」料理は同時に、ブラカヴァルシェフの考えるこれからの美食の要素が詰まっている。
「ランブロワジー」のシグネチャー、スズキのキャビアソースへのオマージュ、メイン食材をスズキからカボチャに置き換えた「カボチャ キャビア」
トロワグロといえば、ヌーベルキュイジーヌの旗手としても知られ、フランス中部にある本店は、50年以上三つ星を取り続ける名店だ。そして、ブラカヴァルシェフは、その東京店を任される前には、パリの三つ星「ランブロワジー」や「アルページュ」などで長年キャリアを重ねてきた。そんな名店の遺伝子を受け継ぎつつも、より自由に自身のスタイルを表現するようになったと言えるだろう。
おすすめの10皿「セゾン」のコース、最初の一皿は、「ランブロワジー」を感じさせるものだった。キャビアをたっぷり使ったダブルクリームに、ノイリープラットを効かせたソースは、ランブロワジーのシグネチャーのシーバス(スズキの仲間)の料理に使われて来た。しかし、ブラカヴァルシェフは、これをあえて旬のカボチャと合わせる。コース全体を見渡して気付くのは、野菜やキノコ、雑穀や豆類を中心とした食材使いだ。
「日本には素晴らしい野菜や魚があること、それに、環境問題を無視し続けることはできないと思ったことが理由です。ですから、環境負荷がかかる和牛などは極力使わない。コロナ禍を通して、その思いがより一層強くなりました」と言う。