──社会的集団活動から離れて自宅から勤務することで孤独感や疎外感を感じる人もいるようですが、たとえば、リモートワークを含めて、コロナ禍以降の「ニューノーマル」現象に関して不安視する人たちや、新入社員に対する有効なアドバイスなどはありますか?
グラットン:私はここでもまたいくつかのポイントを提案してみたいと思います。
1. まず趣味を含めて、自分自身で仕事から離れた「金曜日のコミュニティー」を意識的につくる努力をすること。
2. 東京の通勤ラッシュの過酷さは世界的にも知られていますが、往復の通勤に必要な時間をジムに通ってリフレッシュしたりするなどといった工夫をして、リモートワーク環境にメリハリをつけること。
3. アンケート調査をした結果、特に小さな子供がいる家庭では、こまごまとした雑用などで仕事に集中できないというデメリットを訴えるような人たちもいましたが、やはり時間の使い方にも「自分の中でオンとオフの区切りをつける、自立した判断力」を持つことが大切だと思います。
4. 家事の負担を夫婦で分担すること。これは、特に日本社会では大きな課題ではないかと思いますが、まずは夫婦で話し合い、交渉しあって、家庭内のルールづくりをすることも大切ではないかと思います。
スコット:リモートワークをする人たちが増えるにつれて、仕事を通した人間関係より、家族関係や近隣の人たちとの地域コミュニティー関係がより重要になってくると思います。ですから、そうした新しいコミュニティーの環境づくりや順応性にもアンテナを張ることが重要視されてくると思いますね。
──では、最後に日本の読者へのメッセージは?
スコット:100年の人生を快適に生き抜くためには、仕事上のスキルセットもさることながら、今後はヒューマンスキルがより大切になってくると思います。つまり、真の教育とは「Unlearn is very important」という真逆の発想もあるわけで、ただ単にスキルセットを習得するのではなく、真の自己発見をすること、そして常に柔軟な心を持ち、学び続けることが重要ではないかと思います。
コロナ禍は従来の社会生活の常識を否応なく変えている。そして日本の皆さんにも、現在身の回りで起きている予期せぬ急激な変化を肯定的に捉えて、『人生100年時代』におけるこれからの人生をより楽しく、賢く、健康的に生き抜いて欲しいと思っています。
グラットン:冒頭で述べたように、コロナは今までの常識に急激な変化をもたらしています。特に、どちらかというと柔軟性やマルチステージライフに必要な「多様性」に脆弱な体質を持つ日本社会が、今回のコロナ禍をきっかけに、100年の人生をよりしなやかに生きるためのさまざまな気づきに目覚めてくれることを願っています。ちょうど9月末に『超訳ライフシフト』という要約版が刊行される予定ですので、是非日本の皆様方にも一度目を通していただけたらと思っています。
リンダ・グラットン◎ロンドン・ビジネススクール教授。人材論、組織論の世界的権威。2年に1度発表される世界で最も権威ある経営思想家ランキング「Thinkers50」では2003年以降、毎回ランキング入りを果たしている。組織のイノベーションを促進する「Hot Spots Movement」の創始者であり、「働き方の未来コンソーシアム」を率いる。邦訳された著書に、『ワーク・シフト』(2013ビジネス書大賞受賞)、『未来企業』『ライフ シフト 100年時代の人生戦略』がある。
アンドリュー・スコット◎ロンドン・ビジネススクール経済学部教授。マクロ環境要因がグローバル競争環境に与える影響を中心にマクロ経済を教え、教育優秀授業賞を複数回受賞。2009~2013年、英国金融サービス機構、非常勤取締役およびリスク管理委員会議長を務める。また、英国下院財務省特別委員会金融政策アドバイザー、英国銀行・英国財務省チーフエコノミスト、モーリシャス共和国首相経済アドバイザーの実績を持つ。2016年10月にはリンダ・クラットンとの共著『LIFESHIHT(ライフ・シフト)』が出版されている。