石川:深澤さんはIDEO時代から不自然なことに対して違和感を感じ取るということを大事にされていますよね。そのために、物事をじっくり観察する。僕には、それが虫や動物のような「目に見えない触覚」で、世の中に触れているように見えていました。
深澤:確かに、観察といっても単に目で見ているわけではなく、全身で体感して見極め、知るということの総称を言います。
大事なのは宇宙みたいに誰も行けないところに行って何かを見てくることではなく、日常の中にあるんだけれども、あまりに当たり前すぎてみんなが通り過ぎてしまうことにいかに気がつくかどうか、です。
気づきを得ることで、今までなんでこんな当たり前のことがわからなかったんだろう、となるわけです。
ですが、いつだって、その場ですぐに気づきが得られるわけではないですよ。反芻の時間は大事。一度吸収したことを自分の中で繰り返す短い時間を経て、初めて確信につながります。
石川:観察と反芻を繰り返すというのはデザイナー的なアプローチの典型だと思います。でも、デザイン思考というと、考えるだけのプロセスとして捉えられがちですよね。
深澤:「Design thinking」の「think」が「考える」と訳されるから勘違いしてしまいますが、考えても分からないのです。
「気づき」は「分析」するよりも、はるかにシャープです。自ら体験する中で起こる「はっ」という瞬間からクリエイティビティが生まれます。
石川:「違和感」というのは主観から出てくる結論。それが「当たり前」のことの中に潜んでいるとなると、他の人に理解してもらうのが難しいですよね。
深澤:だから、企画やアイデアの段階で人を説得する必要があるときには、さりげなくその違和感を体験させるような場をつくるようにしています。
どうやって「やっぱりおかしいよね」とみんなに言わせるか。もちろん当たり前になってしまっていることですから、解決しようと思ったら大変です。
法律も変えなきゃいけないこともあれば、技術も開発しなきゃいけない。結構な労力がいりますよ。でもそれを実現させるのが、僕達デザイナーの仕事ですから。
「流される」ことは悪ではない
石川:自分の違和感を捉える力を鍛えるには、どうしたらいいんでしょう。
深澤:僕の場合は、自分で体験していないことは信じないようにしています。直に触れたものでないと確信が持てないのです。
石川:確かに本当にイノベーティブなモノやコトを生んでいる起業家は、自分のリアルな実体験に基づいてビジネスをしている人が多い気がします。
深澤:そういう例は別として、世の中の多くのビジネスでよく使われる「ニーズ」のほとんどは、実体験から出てきたものではないでしょう。そうやってデータや二次的な情報だけからから導き出された答えに対して、作り手はどれだけ確信を持てているでしょうか。
石川:デザインリサーチや観察という手法が軽んじられていたり、ニーズやペインを導き出す表層的な手段として扱われているんですよね。ニーズやペインにしても、もっとリアルに自分も共感できる、自分事のように感じるところまでやらないと本当に解決なんてできない。