何かを極めた人が行き着くのは倫理や哲学
石川:テクノロジーの話が出ましたが、深澤さんには「モノ」としてのプロダクトデザインの領域を越えたお仕事もありそうですね。越境されています。
深澤:アートやデザインの分野と、エンジニアリングやサイエンスの分野は対立すると思われがちですが、もともとかなり密接に絡み合っているものです。
だって、レオナルド・ダ・ヴィンチが、科学者かアーティストかなんて議論しても仕方がないでしょう。どちらもできるならやればいい。作りたいと思ったら自分で作るだけです。
今は担当が分かれすぎているように感じるけれど、あるひとつのことを極め、深い部分に入っていった人は、自然と「哲学」とか「倫理」を考えたくなるものだと思います。
石川:僕も、思想を持たずにただ表面をきれいに整えただけに見えるモノやコトが「デザイン」と呼ばれている現状にはフラストレーションを感じています。
対照的に、深澤さんの哲学は一貫していらっしゃるな、と改めて感じます。「違和感」「自然」「調和」など、いろいろなキーワードが出ましたが、ずばり、深澤さんにとっての「デザインの本質」とはなんでしょう。
深澤:人と人、人とモノとの間に「ささくれのないなめらかな関係性」をつくることです。
人が無意識に「良さ」を感じ取っているものは、みんなが、自分が考えたと錯覚するくらい、社会に馴染んでいきます。「デザイン」はその因子であって、「種を蒔く」ということでしかないのです。
石川:「ふつう」すぎてみんなが気がつかないことを形にする、と。
深澤:そうです。デザインというのは、見たことないような斬新なものを作ることでも、みんなでポストイットを使って出てくる意見の総和でもありません。社会の状況が大きく変わる今は、いろんな「違和感」に意識的になれるときでもあります。
石川:ある意味チャンスですよね。
深澤:そのギャップを埋めるためのぴったりとした線を出すのが専門家の仕事。プロダクトでいえばプロダクトデザイナーですし、寿司であれば大将です。
石川:どんな分野でも、広い意味でのデザイナーになりうるということですね。
深澤:はい。だから自分の専門分野で、「一番美味しい刺身」に近づけるための最後の1ミリを導き出すのがデザインというものだと思いますね。
深澤直人◎日本民藝館館長。多摩美術大学統合デザイン学科教授。21_21 Design Sightディレクター。良品計画デザインアドバイザリーボード。 マルニ木工アートディレクター。日本経済新聞社日経優秀製品・サービス賞審査委員。毎日デザイン賞選考委員。2006年Jasper Morrisonと共に「Super Normal」設立。2010年~14年グッドデザイン賞審査委員長。 2012年Braun Prize審査委員。 2017年LOEWE クラフトプライズ 審査委員。ロイヤルデザイナー・フォー・インダストリー(英国王室芸術協会)の称号を持つ。2018年、「イサム・ノグチ賞」を受賞。
石川俊祐◎KESIKIパートナー。英Central Saint Martinsを卒業。Panasonicデザイン社、英PDDなどを経て、IDEO Tokyoの立ち上げに参画。Design Directorとしてイノベーション事業を多数手がける。BCG Digital VenturesにてHead of Designを務めたのち、2019年、デザインファームKESIKI設立。多摩美術大学TCL特任准教授、CCC新規事業創出アドバイザー、D&ADやGOOD DESIGN AWARDの審査委員なども務める。Forbes Japan「世界を変えるデザイナー39」選出。著書に『HELLO,DESIGN 日本人とデザイン』。