一方で、グリーンランドの人々にとっては不幸中の幸いと言うべきか、一部には地球温暖化の産物としては異例の「恩恵」を受ける可能性も指摘されている。グリーンランドの氷床が融けて大量の土砂が海中に流出することで、建設業界で用いられる砂や砂利を採掘し、輸出することができるようになるかもしれないのだ。この「砂ビジネス」が実現すれば、グリーンランドの経済活性化につながり、懸念される世界的な砂不足にも貢献できる。
グリーンランドの「砂ビジネス」の実現可能性や、砂を大量に採取することによる環境への影響などを研究しているメッテ・ベンディクセンは、科学誌『Nature』に掲載されている「Time is running out for sand」のなかで次のように述べる。
「砂と砂利は、化石燃料を超えて最も多く採掘されている原料であり、都市化と世界的な人口増加によって、中国、インド、アフリカを中心に需要が爆発的に増加している。世界では毎年約320億トンから500億トンが、主にコンクリート、ガラス、電子機器の製造に使用されているが、これは自然再生のペースを超えており、今世紀半ばには需要が供給を上回る可能性がある」
ニューヨーク・タイムズの記事「Melting Greenland Is Awash in Sand」では「世界中に砂を輸送するためのコストがかかることを考えると、その実現可能性は砂の価格が上昇するかどうかにかかっている」と指摘されているが、もしこれが実現した場合、グリーンランドにとっては非常に大きなビジネスとなる。
グリーンランドの人々にとって氷床の融解は政治経済的な問題だ(Getty Images)
18世紀からデンマークによる植民地支配を受けてきたグリーンランドであるが、島民の独立への思いは強い。その中でネックになってきた問題の一つは、独立すればデンマークからの補助金がなくなってしまうという問題であった。氷床の融解の問題は、グリーンランドに住む人々にとっては政治経済的な問題でもあるのだ。
ニューヨーク・タイムズの同記事の中でメッテ・ベンディクセンが語った計算によると、グリーンランドにおける最大の都市ヌークから南に約50マイルのところにあるフィヨルドに毎年流れ込む土砂の15%を採取した場合、その量は3300万トンであり、これは米国で最も人口の多いカリフォルニア州サンディエゴ郡の年間需要の2倍に相当するという。しかもこのフィヨルドは、グリーンランドに数ある砂の採掘が可能な場所の一つに過ぎない。
メッテ・ベンディクセンも指摘しているように、この新たな輸出産業がもたらすかもしれない環境への影響は当然のことながら十分に考慮されねばならない。しかし、研究が進めば将来的に、グリーンランドの氷床融解による海面上昇でリスクにさらされる砂浜や海岸線の補強に砂や砂利が使用される可能性も指摘されている。
地球温暖化の問題はすでに待った無しの「非常事態」となっている。これに対処していくためには、自然や科学が人間に教える厳しい現実を直視しながらも、常に新たなる可能性の糸口を探していかねばならないだろう。