ハリスは、米大統領選の民主党候補者となるジョー・バイデンとともに戦う副大統領候補に選ばれた。インド系及びアフリカ系のルーツをもつ米国人女性としては米国史上初の副大統領候補者であり、民主党の女性副大統領候補者としては、1984年のジェラルディン・フェラーロに続いて史上2人目だ。
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彼女が副大統領候補になったことは、理論上は勝利に見える。ガラスの天井にひびが入ったのだ。社会的にもっとも抑圧されてきたと言える女性たちにとっては、希望が見えた瞬間だ。
しかし実際には、その勝利は盤石とは言えない。
女性政治家の地位の社会的上昇は、男性政治家のそれとはまったく別物だ。そしてハリスにも、その兆しが早くも表れ始めている。ハリスが副大統領候補者に決まったとわかってから24時間で、「kamala harris husband(カマラ・ハリス 夫)」「kamala harris race(カマラ・ハリス 人種)」という検索語が世界中で急増。ハリスの画像検索数も4倍以上に跳ね上がったのだ。
言うまでもないが、私たちがここ10年で学んできたように、女性政治家たちの外見やファッションは、その政策や政治的行動よりもはるかに高い報道価値を持つのだ。
英国の下院議員トレイシー・ブレイビンは2020年2月、ボディラインがはっきりわかるワンショルダーのドレスを着て議会に参加したことで、「ふしだら女」と呼ばれた。
2019年10月にはワシントン・タイムズ紙が、米民主党下院議員アレクサンドリア・オカシオ=コルテスを揶揄した。ワシントンD.C.にある高級美容院「Last Tangle Salon」に行き、カットとローライト(髪全体に暗い色をポイントで入れて立体感を出すこと)、チップを合わせておよそ300ドルを支払ったと、独自に料金を計算して報じたのだ。
「社会主義者を名乗り、裕福な人間をしきりに非難し、ワシントン中心部の生活費が高いと文句を言う人間が、ダウンタウンにある行きつけの高級サロンで髪型を整えるのに300ドルも出している」──どうやらオカシオ=コルテスは、「政府から補助を受けている、議員会館内の床屋」に行くべきだったようだ。そこなら、「100ドル近く節約できたはず」という。
米民主党下院議員アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(2019年10月撮影、Getty Images)
2008年にサラ・ペイリンが共和党の副大統領候補として選挙を戦ったときには、共和党全国委員会がペイリンとその家族のために、高級百貨店ニーマン・マーカスで7万5062ドル、同じくサックス・フィフス・アベニューで4万9425ドルを使ったことが、開示された収支報告書で明らかになり、激しく非難された。選挙対策チームの広報はメディアに対し、ペイリンが身に着けた洋服は、選挙後にチャリティに寄付されると請け合ったが、「wardrobe-gate」という見出しは、何週間にもわたってメディアを飾った。
こうした点から見ても、男性と女性のダブルスタンダードが存在していることは明らかだ。女性は、以下のふたつのどちらかを「選択」せざるを得ない。つまり、真剣に受け止めてもらうために女性らしさを隠すか、あるいは、政治的発言よりも女性らしさが注目される状態を受け入れるか、という選択肢だ。