とはいえ、欧米の方法をそのままというのも日本には馴染まない。楽天では「日本向けのアレンジ」は常に意識し、ロジカルには表現できないような微調整をしている。
「一言でいうと、『キメすぎない』ですね。日本は、Yes/Noがはっきりしているような諸外国と違い、白黒つけなかったり、行間を読んだりと、曖昧さを持つ文化。そういう感じを残すようにしています」。そして、その独特の塩梅は、「三木谷さんの勘がとても鋭い」のだという。
小さな差が大きな価値を持つ
ロゴを軸に事業を整理し、日本らしさも保ちながら世界を舞台に展開する。まさに三木谷と二人三脚で楽天ブランドを確立させてきた佐藤は、ブランディングとは「社会の中での存在意義を戦略的に作っていくこと」と定義する。
存在意義の示し方には、もちろん企業活動そのものも含まれるが、人間の情報認知は約8割が視覚と言われるように、デザインはかなり大きなファクターとなる。「この領域でもっと攻めていきたい」。その考えから佐藤は、2018年に「楽天デザインラボ」を立ち上げた。
「三木谷さんと何年も前から話していたことです。自社にデザインの組織を持ち、ノウハウを貯めていこうと。今回のコーポレートフォントのプロジェクトは、その大きな成果の一つですね。社内のデザイナーが細かなところまで関わることで、フォントという完成品だけでなく、プロセスやノウハウも会社に残りました」
フォント開発の様子。左が佐藤、右は楽天デザインラボのデザイナーChee Yen Thye(タイ チーイエン)(c)楽天
フォントの違いは、「R」の楕円のサイズが大きいとか小さいとか、注視しなければわからないような小さな差だ。しかし佐藤は、その差こそが大きな差だという。
「そもそもデザインやマーケティングでブランドの差をつけるステージでは、一定の商品やサービスのクオリティは担保されています。五輪で競う陸上選手も、百分の一秒の世界で勝敗が決まります。そういう小さな差が大きな差となり価値を持つ。そこを突き詰められるか。また、経営判断として、そこに投資ができるか、ということですね」
その挑戦ができる楽天というチームで、佐藤はさらに表現の幅を広げて、経営とクリエイティブをもっとリンクさせていきたいと意気込む。
「時代や環境が変われば、最適な表現も変わる。人間のコミュニケーションのツールが文字と形、色というのは大きくは変わらないけれど、デザインはそれだけじゃない。音とか感触とか、タッチポイントはまだまだたくさん。やりたいことはいっぱいある」
そう語る佐藤は、フォントも整った今、次にどんなものを生み出すのだろうか。