佐藤は、チーフクリエイティブディレクター(CCD)に就任してまず取り組んだことについて、「デザインで事業を整理した」と説明する。当時、楽天のサイトにはすでに多数のサービスがあり、あらゆるロゴが点在していたが、それらを事業の規模や領域で分け、「この事業はロゴを作る」「そのサービスは緑色のグループ」など体系化していったのだ。
2018年にリニューアルしたロゴ一覧 (c)楽天
その際、ロゴには特にこだわった。「インターネットを軸にサービスを提供するときには、リアルの店舗やプロダクトがない分、消費者との接点としてロゴが何より重要になる」からだ。また、楽天トラベル、楽天市場、楽天〇〇……と、あらゆるサービスが楽天というブランド名と結びつくように仕掛けていった。
世界で戦うなら「シンプル」に
このように、個別の商品やサービスよりも、「楽天」という一つのブランドを印象付けていく手法は「マスターブランド戦略」と呼ばれ、ブランド発祥の欧米では1990年代から取られている。佐藤は前職時代に海外事例にも触れる中で、この戦略に確証に近いものを持っていた。
「多数の商品を展開している場合、それぞれを個別に立てていくよりも、ひとつのマスターブランドに集約する方が、マーケティングやコミュニケーションの効率が上がる。100の投資をするときに、10個に10ずつ分散するか、1つのブランドに100をかけるか。三木谷さんは当初からそのビジョンを持っていて、方向性が一致しました」
楽天採用サイト インタビュー画像より
しかし、日本ではいわゆる一流企業でもそれをできているところは多くない。その理由について佐藤は、「日本が本当の意味でグローバル化していないから」として、カルチャーの違いを語る。
「欧米は、人種や民族、言語もさまざまで、多様な文化、価値観が混在しているので、シンプルなコミュニケーションでないと伝わらない。一方で日本は、島国で、言葉や複雑な文脈も共有ができ、細かいニュンアスの違いなどを理解しあえる環境です。前者をローコンテクストカルチャー、後者をハイコンテクストカルチャーと言いますが、グローバルで戦うには前者である必要があるんです」
それに今の時代は、「世界に出て行って戦う」と言わずとも、グローバルを意識する必要がある。インターネットで世界中がつながっているため、日本のブランドがどんなに「国内相手でやっていくので大丈夫」と思っていても、海外ブランドがどんどん日本に参入してくるからだ。