インターネットが農業の鎖国状態を解放した
2020年で、独立して8年目になる。猪俣は、現在広さ約30a(3000平方メートル)の圃場で毎月きゅうりを約10万本を収穫する。インターネットで情報収集を行い、ビニールハウスにスマート農業のシステムを5年前から取り入れ、試行錯誤の末に収量は20%近く向上したそうだ。
Photo by Yuta Nakayama
ハウスの温度や湿度、二酸化炭素濃度などの環境の管理に加えて、水やりなどの作業もスマートフォン1つで行なっている。ハウス内のデータは1分単位で蓄積され、従来の勘と経験に基づいた判断ではなく、スマートフォンでデータで状態を分析しながら、経営判断を進めている。今のやり方も全てインターネットからの情報だ。
「農家は意外と一人で作業する事が多いです。年中農作物と向き合っているので、研修をうける時間などもあまりない。しかし、インターネットを使えば一瞬で世界中の人とつながり、情報交換ができます。一人で作業をしても情報の幅を一気に広げることができるのです」
経営者マインドが大事
スマート農業を導入することで、販路の拡大などに注力する時間ができる。例えばポケットマルシェなどの農家の直販サイトなどで自社のきゅうりの販売をおこなっている。
「どれだけいい機械を導入しても、活用しないと収量は上がりません。作業効率がよくなっても、収量に直結する訳ではありません。機械代120万を投資と捉えることで、回収する方法を日々試行錯誤しています。大事なのは勘と経験だけの農業からの脱却です」
スマート農業の導入は、売り上げに直結するわけではない。農家のハウスは、サイズやハウス内の環境もバラバラだ。加えて宮崎県は台風も多い。ハウスや地域ごとにあったスマート農業の活用の仕方と、スマート農業への投資をいかに回収するかといった経営者マインドと行動力も必要だ。
農業新時代がやってくる
「とにかくお金を稼ぎたいという欲が昔はあったけど、今はそれ以上に農業が楽しいです。農業はずっと続けるだろうけど、その他の可能性も常に考えておきたい。僕の今の想いは、農業を通じて、地元の新富町に貢献することです。住み続ける街をより良くしたい。自分たちの手でより良くしたい。その気持ちが一番強いです」
Photo by Yuta Nakayama
猪俣は、将来的に作地面積をさらに3倍に増やしたいそうだ。10年前には考えられなかったスケールだが、スマート農業を活用すれば実現可能と考えている。
「農産物ができるのは1年に一回。まだ農業に携わって10年だから、10回しかチャレンジしてないんですよ。もっともっとチャレンジしたいです」
猪俣への取材を終えて、この言葉が最も筆者の印象に残っている。この数年テクノロジーは飛躍的に進化したが、農業の手法は従来の手法を抜け出しきれない人も多いと筆者は考える。猪俣のように農業をビジネスとしてとらえ、革新を繰り返す人材が増えれば、農業の固定概念に風穴をあけ、日本の農業はさらに躍進するだろう。