3. 普通を知り、逸脱を探す
マリアム・セマーンは、レバノン出身の実力派ジャーナリスト。ナイトフェロー研究員としてスタンフォード大学に招かれ、メディアにおけるイノベーションとデザイン思考を研究した専門家である。
そんな彼女に、仕事のコツを訊いてみた。どうすれば膨大なノイズに惑わされず、ストーリーの本質をつかむことができるのだろうか?
知識をつけることです、と彼女は答えた。ストーリーの本質に迫るためには、その話題を深く知っておくことが不可欠だ。大切なのは、事件をより大きな文脈のなかに置き、一見無関係な分野とのつながりを発見すること。そのため彼女はあらゆる関連ニュースに目を通し、ほかのジャーナリストが見落としているものを探す。
「ストーリーの描き出す模様を理解し、普通でないところを見つけ出したいんです。大きな流れのなかで、妙な引っかかりを感じる部分はないか、と」
そこで彼女が活用するのは、「別の視点で見る」というテクニックだ。
「別の立場に立ってみると、事態の新たな側面が見えてきます。ある人物の目で見たとき、思いがけない一面に気づくかもしれない」
彼女は関係者一人ひとりの立場を想像し、出来事をあらゆる側面から眺めてみる。そうすることで、より深い動機や説明が見えてくるのだ。
4. 問題を明確にする
政治家のインタビューを見ていると、質問をはぐらかす技術の巧みさに感心することがある。政治家でなくても、多少はそういうことをやっているものだ。必要な情報を集めて明確な答えを出すよりも、あいまいに適当な答えを返すほうがずっとたやすい。
だが、そういう答えはさらなるあいまいさを生み、誤解と無理解の悪循環をもたらす。そこから脱け出して本質をつかむためには、質問を明確にすることが不可欠だ。
セールスフォース・ドットコムの元副社長イーライ・コーエンは、5人の部下と共にサンフランシスコの高級ホテルの一室に集まっていた。経営課題のシミュレーションに臨むためだ。これから3時間のあいだに、ほかのチームを圧倒するような解決策を出さなくてはならない。
コーエンのチームは、なかなか前に進めずにいた。何か意見を言うたびに、さらなる問題や疑問が生まれてくる。解決策を探していたつもりが、いつしか無秩序な意見のぶつけ合いに変わってしまう。アドバイザーとしてその場にいた私は、15分間待ってから議論を中断させた。
「そもそも今、何の問題を考えているんです?」
私がそう言うと、全員気まずそうに黙り込んだ。それから誰かが別のことを言い、それをきっかけにまた話が脇道に逸れていった。
私はもう一度話をやめさせ、同じ質問をした。何度か繰り返したあと、ようやく彼らは静かになり、問題の本質を考えはじめた。何を解決しなくてはならないか。そのために、何を決めなくてはならないか。
彼らはよけいな話をやめて、個々のアイデアをより深く検討し直した。それらをつなげる大きな流れは、いったい何なのか。やがてでたらめな動きがやみ、ひとつの大きな推進力が生まれた。その勢いに乗って具体的なアクションプランと条件を決め、責任範囲まで確定させた。
ちなみに結果は、彼らのチームの圧勝だった。
『エッセンシャル思考』
グレッグ・マキューン/著 高橋 璃子/訳
※本稿はグレッグ・マキューン著『エッセンシャル思考』(かんき出版)より、一部を抜粋編集したものです。