事実、今年のフランスのバカンスは、例になく国内旅行で盛り上がっている。今や大半の欧州国は隔離期間なしで自由に行き来できるものの、やはり多くの人は国外よりも国内で過ごし、フランスが世界に誇る観光地を見直す機会になっている。地中海の高級リゾート地ニース、モンブランを臨む町シャモニなど、今まで外国人たちが押し寄せ占拠してきた土地を取り戻し、自国民だけでのびのびと楽しんでいるようだ。
ラ・ロシェル近郊、ランチタイムで賑わうレ島
フランス政府も国民のバカンス旅行のために、周到に準備は進めていた。3月半ばから5月まで、世界でもいち早く市街をロックダウン化し、厳しい外出規制を強いていたが、6月14日の「勝利宣言」以降は急速に規制を緩和していった。最後の壁であった100km未満の移動制限を6月末に解除したのは、バカンスシーズン突入に向けて、政府公認で国内旅行を奨励するためと言えるだろう。コロナで打撃を受けた国内経済を、長期休暇を利用してなんとか好転させたいと考えるのは、どこの国も同じなのだ。
だが、最近、フランスの感染状況にも暗雲が立ち込めている。感染者数の再増加を受け、先月下旬からは、マスク着用の義務を屋内施設まで拡大した。レストランへもマスクをつけて入店し、食事中以外、たとえば食事中にトイレへ行く時でもマスクが必要だ。近頃では、着用範囲を屋外まで拡大し、ビーチでもマスク着用が義務化するという地域もある。
屋内施設でのマスク着用を促す看板
それでも人々は、マスクを着用して旅に出る。ただ、何事にも主張の強いフランス人が、これほど大人しくマスク着用を守るのは、辛く長かったロックダウン状態にはもう二度と戻りたくないという想いがあるのだろう。マスクを防波堤にしたニューノーマルバカンスはコロナ感染を再加速してしまうのか。その結果は、夏の終わりとともに明らかになる。