今日、都市部の人々はホームレスに寛容になり、日本人にはちょっと想像もつかないほど多くの人が、小銭や1ドル札を彼らに差し出す。自らの不遇を訴え物乞いさえすれば、多くの小銭を集めることができ、スマホを所有しているホームレスも多い。この20年、そういう人たちが飢えで死んだという話は、ほぼ聞かない。
一方、ホームレスではないものの、なんとか家賃を払い、医療費を払い、公共料金を払うなかで、家計を切り詰められるだけ切り詰め、食事まで抜いて、不十分な栄養で生きている真面目な人たちも、この国には意外と多いのが現実だ。
かつてこのコラムでも、フードスタンプという食品購入補助制度を紹介し、50万人の青少年が、昼の学校食にのみ栄養価を頼っているというアメリカの実態に触れたことがある。
これだけITが発達し、生産から物流にいたるまで需給が自動的に調整できる仕組みになっているにもかかわらず、しかも食に困っている人がいるなかで皮肉なことに、アメリカは「食品ロス」を抑制することができていない。
いや、むしろ需給管理が発達し過ぎて、必要とされるものの中身が刻々と変わり、卸売り店が昨日必要だったものが明日は不要となり、弱者である生産者は廃棄するしかなくなるという局面が増えてきている。
食品ロスの規模が大きいラスベガス
アイオワ廃材管理センターのディレクターのダン・ニッキー氏によると、アメリカで生産される食材の40%は、食卓に上る前に廃棄され、その額は約17兆円にのぼるという。世界全体の廃棄額が75兆円であることを考えると、世界のたった4%の人口しかないアメリカが、世界の23%の食品ロスを計上していることになり、この過剰に突出した異常事態がわかる。
さらに、外食産業や食品販売の現場では、賞味期限切れの食材を捨てたり、返品処理にコストがかかるためゴミ箱行きにしたりするケースが、後を絶たないという。
こうして、全米の埋め立てゴミ処理の20%は食品で占められる。毎年計上される3500万トンという数字は、エンパイアステートビル100棟分のボリュームになるという(ハーベスト・パブリック・メディア)。
さすがに、近年の異常気象がゴミのリサイクルへの啓蒙活動にもつながって、おしなべて資源リサイクルが一般家庭でも進んできたが、そういった話はもっぱらペットボトルや空き缶や新聞紙などに向けられることが多い。「食品ロス」についてはあまり言及されず、改善はなかなか進まなかった。
特に筆者の居住するラスベガスは、食品ロスがひどい。全米一を誇る15万の客室はコンベンションやスポーツイベントなどで常に埋まり、年間4000万人の観光客がこの街で食事を摂っている。それだけに、食品ロスの規模も大きい。