成瀬:確かに、InTripはかなり実践的です。禅に興味のなかった人も、日常やビジネスのシーンで禅をインストールできるようなプログラムが多い点は大きな特徴だと思います。
とにかく東凌さんの話は順序立てて話してくれるのでわかりやすい。たとえば、禅を体感する1週間プログラムでは、まずは呼吸に意識を集中することで、そもそも呼吸していたことに気づく。それが音や香り、体全体へと拡張していき、気づきを高めていきます。するとまわりの環境と深く繋がっていることに気づき、そこから自分と外との境界が徐々に薄れていく。それを細かく体を使いながらプログラムにして、体感します。実際にInTripのアメリカチームもこのプログラムを通して口々に新しい発見があったと言っていました。
──外出自粛期間中に開発を進められたということですが、禅をオンラインで伝えるサービスにする上で難しさはありましたか。
伊藤:正直、難しさはありました。対面で座禅をしているときは、人の表情や緊張度をみて皆さんの状態を察知していました。でも今回は音声だけで映像は使えない。身振り、手振りもないので、声だけで的確なガイダンスをしていくというのは、今までにない説明方法を沢山工夫しました。というのも、禅は姿勢や動作を整えたりと、主に身体からアプローチする事が多いので、耳から入ってくる情報だけで勝負するというのはある種の挑戦でした。
成瀬:いまから5年くらい前に、たまたま東凌さんが週末に開催されている座禅教室に伺ったことがありました。その時のことを今でも覚えているのですが、話がとにかくわかりやすい。今までいくつもの書籍を読んだり、人から話を聞いたりしていましたが、本当に面白くてわかりやすい。ビジネスマンへの研修をたくさんやっていることもあって、とても腹落ちする。禅というと、宗教的、難しいというイメージを持っている方もまだ多いと思うんですが、そこを理解しやすいアプローチで届けてくれる。実際に僕の周りでも、全く興味のなかった友人が興味を持つくらい、人を惹きつけるんです。
新型コロナがもたらした、「豊かさ」の変化
──新型コロナウイルスの影響で、「豊かさ」の指標が問いただされていると思います。精神に目を向けるということは、どのような意味を持つのでしょうか。
伊藤:「豊かさ」が持つ意味は、大きく変わってきていると思います。世界が大きく変容していく中で、「豊かさ」ってなんだろうというのは、みんなが考え直していると思うんです。「幸せ」ってなんだろうと考えることに直結しますね。
遠くに移動できなくなり、活動がしにくくなる中でも豊かさを感じたいのであれば、身近なものへの感謝が必要です。インターネットが繋がることや、蛇口ひとつ回せば水が出ることも当たり前と思ってしまいますが、それが感謝に変わるには「気づき」が大切になってきます。
そしてこの、「気づき」の積み重ねは明日の無意識を変える。無意識というのは、人は普通に生活していると、物の受け取り方や感じ方ってオートマチックに反応するようになっていますよね。嫌なものを見たら腹が立つとか、嫉妬してしまうときって無意識に反応していて、これは初期設定で「反応ソフト」がインストールされているのと同じなんです。感情を理性で抑えているといつか限界が来て、ストレスが溜まってしまいます。
そういった感情が湧いたとき、「気づき」を積み重ねると、なぜそういう反応をしているのか意識できるようになり、初期設定をアップデート出来ます。例えば、無意識の怒りで体が力んでいることに気づいたり、過去の出来事とつながっていると落ち着いて捉えられることができます。
徐々に無意識が変わっていけば、長期的に見れば人格が変わることもあります。幸せや豊かさを感じるための「気づき」を増やすというのを、InTripのプログラムを通して感じて欲しいですね。