個人が日常的に自分と向き合うことが大切
──マインドフルネスという言葉をビジネスの文脈で耳にすることも増えました。ビジネスにおける禅の有効性は、今後高まってくるんでしょうか。
成瀬:そうですね。特に米国では顕著ですが、禅を実践する経営者は増えています。マーク・ベニオフ(セールスフォース 創業者)さんも、両足院を訪れたという話を聞いて、世界の名だたる経営者たちも禅に興味を持っているというのは面白いと思います。知の巨人であるケン・ウィルバーは、瞑想することで新しい時代の価値観に気づき、欧米の経営者やリーダーの10%が瞑想をするようになると予測しています。事実、その数は増えています。スティーブ・ジョブズも、 “Journey is the reward” (旅こそが報酬である)という禅の言葉を引用していて、ビジネスでもプロセスに重きを置くという風潮は注目されていますね。
伊藤:よりチームビルディングとか、パートナーシップという要素が重要になっていますよね。トップダウンではなくて、よりフラットでボーダレスな関係性が重要視されています。そうなったとき、チームは一つの生き物のように、より有機的に流動的に前進していきます。
一言でなぜここで瞑想がリンクするかというと、瞑想は信頼だからです。というのも、瞑想は人間は自然の一部ということを、身体から感じていく体験です。周りの環境も人間も、大局的には自然の一部であり、この美しい惑星を一つの家としてみんなで暮らしているという体感値を得ていると、チームビルディングの際に相手の感情や選択肢に寛容になれます。そうすると、相手のポテンシャルをまだ信じられるということに繋がる。
こう考えると、瞑想というのは人同士が信頼し合える世の中を作っていけるステップだと思っているんですね。これを言い切る人も少ないとは思うんですが、こういったプロセスが瞑想から生まれるんです。
成瀬:コロナも大きなきっかけでしたが、時代の流れの中で禅の必要性は高まっている、と思っています。やっぱり多くの人たちが一番の資本は体であることがわかったと思うんです。心と体さえ健康であれば、何でもできる。一方で物が溢れすぎたことで、心の健康が阻害されることも増えているかもしれません。いかに心の健康をつくっていくか。企業のヘルスケアも需要が高まっていますが、それぞれ個人が自分と日常的に向き合うことが大切だと思っています。
『千の顔をもつ英雄』という書籍の著者であるジョゼフ・キャンベルが、本の中で面白いことを書いてしました。昔から英雄がたくさんの道を今まで作っているから、旅をする、冒険をすることの危険度は小さくなっている、と言うんです。例えば、以前はアフリカ大陸に行くことで未知なる怪物と出会い、そこで戦うことがあったけれど、いまはそういう未知なる怪物と出会うことがなくなった代わりに内なる怪物と出会い、内なる自分と対峙する。外の世界に旅するところで自分の内面に辿りつき、孤独になるはずのところで世界と一つになっていける。そう書かれていました。いま僕らがやっていることも、それに近くありたいと思っています。
外なる旅は内なる旅と連動しているように、InTripは内面にトリップしていくもの。InTripを通じて内なる旅を、多くの人が冒険して行ってもらえたら嬉しいですね。