「指先がメスになる」時代 SNS誹謗中傷対策をどう進めて行くべきか

ネット上の誹謗中傷は、罪に問うこともハードルが高いのが現状だ(Shutterstock)


現状ではプロバイダが投稿を削除する上で、被害者の権利が侵害されたかを確認する必要があるが、その際すでに投稿が削除されている場合はプロバイダが過去の投稿事実を確認することは一般的に難しいとされる。テレビのリアリティ番組への出演がきっかけでネット上での誹謗中傷被害を受けていた木村花さんの自殺が報じられた後に、誹謗中傷をしたと見られる多くの投稿が削除され、投稿者の身元を特定することはさらに困難となった。

ネット上の誹謗中傷を法で裁く場合、名誉毀損やプライバシー侵害に当たるかが重要だ。しかし、ネット上の誹謗中傷には「うざい」「消えろ」などの暴言も多く、それらも積み重なれば被害者にとっては心に深い傷を残してしまうが、名誉毀損にはならない場合が多い。

被害者の社会的評価を低下させる内容と判断できない場合や個人を特定または推定できない暴言などは、規制の対象とはなりづらいのだ。特に著名人の場合は、何百もの投稿で心ない言葉を浴びせられることがあり、一般的な基準では測れない被害が出てくるかもしれない。今後、どのようなルール作りが必要だろうか。

「SNS改革」に求められる3つの視点


ヤフーの検討会委員の小川氏は「表現の自由」とのバランスについて最も難しい課題として、解決に向けて重要な3点を挙げた。

まず「政治的な発言の自由を保障すること」だ。次に「差別的・中傷的な表現についてのルールづくり」を挙げる。マスメディアの場合「差別用語」を禁止するルールづくりを重ねてきたが、明確ないじめを表す言葉なども含めて議論する必要がある。3点目は、その議論を踏まえて「明確的な表現については、自動的に排除すること」も検討すべきだという。

誹謗中傷に限らず、表現の自由とネットの環境整備は世界中で議論されている課題だ。匿名であるがゆえに無責任な発言や人を傷つける投稿が広がれば、規制をかけざるを得なくなるかもしれない。

小川氏は「ペンは人の心を傷つけることができるとも言われてきたが、この時代は全員がメスを持っている。指先がメスになってしまうことを認識して発信すべき」と警鐘を鳴らす。最近では、ツイッターなどで誹謗中傷を止めようとするユーザーの動きや、SNS上で政治的なムーブメントを起こす「ツイッターデモ」も出てきている。

自由なネット社会を守るためにも、いま一度ネットリテラシーを心がけたい。2000年代に急速に普及したSNSにも、そろそろ改革が必要な時機が到来している。

文=田中舞子、督あかり

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