「指先がメスになる」時代 SNS誹謗中傷対策をどう進めて行くべきか

ネット上の誹謗中傷は、罪に問うこともハードルが高いのが現状だ(Shutterstock)


政府もこの問題を手放しにしてきたわけではない。ネット上での名誉毀損など誹謗中傷被害を防ぐため、2002年にプロバイダ責任制限法が施行された。プロバイダが該当する投稿に対応した際に負う責任の制限や、被害者が該当する投稿者の情報を開示請求できる権利などが規定されている。

私たちがインターネットを使用するとき、回線事業者とプロバイダの両方と契約する必要がある。私たちのスマホとインターネットを繋ぐ回線を提供するのが回線事業者であり、その回線を通じてネットに接続させるサービスを担うのがプロバイダだ。プロバイダ責任制限法により、被害者は投稿者の氏名、住所、メールアドレス、IPアドレスなどの情報開示を請求できる。

しかし、これをプロバイダが拒否した場合は、民事訴訟を起こして情報開示を請求する必要がある。また、請求時には該当する投稿を証拠として残すために通信履歴の保護も求める必要があるなど、多くの手続きをしなければならない。訴訟の場合は、弁護士に依頼することになるなど費用や時間もかかる。

誹謗中傷、ネット鬱
ネット上の誹謗中傷被害の相談件数は増え続けている(Unsplash)

ネット上の誹謗中傷では、複数のアカウントから被害を受けることがあるため、対応する被害者側の負担が大きく、心理的にもハードルが高い。

総務省は2020年4月に有識者会議をつくり、上記のような情報開示の手続きの円滑化を検討している。被害者がプロバイダから直接情報を得やすくするような対策を議論しており、8月に省令改正を目指す。

また、投稿者の開示情報の中に電話番号を盛り込む可能性も検討している。近年、SNSアカウントを作成する際に本人確認のため2段階認証として、携帯電話の番号を入力させるケースが増えており、電話番号がわかれば弁護士が通信会社に所有者を照会することが可能になる。被害者側がより早く、投稿者の情報にたどり着けるようになると期待されている。

個人情報の保護と表現の自由のジレンマ


時に自殺にまで追い込んでしまうネット上の言葉だが、規制には慎重にならざるを得ない。特に名誉毀損の場合は、どのような内容が規制の対象になるか一概に示すことは難しく、プロバイダやSNS運営企業が投稿の規制を強化することは、利用者の「表現の自由」を奪うことにもなりかねない。

被害者がプロバイダに投稿の削除を依頼した場合は、投稿内容が名誉毀損に当たるかを精査した上で必要な処置を取ることができるが、該当する投稿のみの削除ができず掲示板を削除しなければいけない時は、他の投稿も削除してしまうなどの問題も発生する。もし、投稿者が措置に不服である場合は、プロバイダを損害賠償で訴えることもあり、規制対象の絞り込みはプロバイダに大きな負担となっている。

被害者の救済策として検討されている電話番号の開示についても、その情報が流出したり、悪用されたりする懸念もある。
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文=田中舞子、督あかり

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