経済・社会

2020.07.04 12:30

いまこそ都市政策に「音楽の力」を 世界の戦略的事例


都市の音楽戦略の課題と未来


しかしながら、ミュージック・アーバニズムに関連した取り組みの多くは、地元の都市コミュニティにおける音楽の役割を全体的に探求するというより、都市の音楽産業の発展に向けられたものとなっています。また、音楽都市のネットワークでは、土地利用政策について詳細に分析したり、公開討論会や委員会、コミュニティグループに変化をもたらすべく誰かを任命したりといったことよりも、情報共有が優先されていたり、もしくは非公式なつながりであったり、という場合がほとんどです。

さらに、特定のジャンルの音楽が、他のジャンルより手厚い支援を受けていることもあります。

例えば、アーツカウンシルや文化系の企業を通じて、クラシックには充実した支援が行われていますが、新進の若手ヒップホップMCなどにはほとんど支援がありません。イギリスでは、ヒップホップの中のあるサブジャンルがほとんど犯罪化されているも同然の状況で、ユースクラブやコミュニティ・レコーディングスタジオ、メンタルヘルス・サポートも緊縮財政により大幅に削減されてしまっています。

ミュージック・アーバニズムが取り組むべきは、このような課題であり、携わりたいと希望している都市コミュニティ側に向けて、競争力を生み出すことです。音楽は、私たち皆の中にある、最も個人的な芸術形式であり、世代や文化、宗教や人種の違いすら超えていく存在です。

しかし、水と同様、音楽も再生可能資源ではありません。影響力を持ち、栄え続けられるかどうかは、土地利用、資源配分、コミュニティが携わる政策などにかかっています。そして、商業面から一歩退いたところで、音楽の役割を探求していくのが、新たなアプローチではないでしょうか。アーティストの商業的な成功や、音楽の消費額の拡大に加えて、音楽のあるより良い都市空間をつくりあげることが、ここでの目標なのです。

全ての都市に音楽戦略担当の職員がいて、音楽政策があり、実施プロセスがある。そんな世界が実現するよう、都市政策で意識的に音楽を取り扱っていかなければ、資源としての音楽は失われてしまいます。そして、世界中の都市が、今そのことに気づき始めているのです。

(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)

連載:世界が直面する課題の解決方法
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文=Shain Shapiro, Founder and CEO, Sound Diplomacy

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