しかし、音楽に対するこうした伝統的な関わり方は、どちらのケースも視野の広いものとはいえません。それは、音楽がコミュニティにもたらす包括的な価値が、あまり考慮されていないからです。そしてこれこそが、ミュージック・アーバニズムが取り組む課題です。
例えば、アマゾン社が第2本社を選定した際に話題になったように、企業は、その所在地における都市生活の水準を、重要な検討要素としてしばしば考慮します。醸造所や屋外空間、ウォーカビリティに加えて、音楽も都市生活のレベルを示す重要な指標です。スウェーデンの例のように、国の音楽教育システムは、富を生み出す源となります。さらに、音楽活動に参加することは、健康の増進にもつながる他、雇用を生み出し、外食産業から小売業に至るまで、幅広い分野で役立っています。
また、公共交通機関での音楽は、通勤者の神経を落ち着かせる効果があります。音楽がもたらすこうした効果は、規制や観光といった従来の都市における音楽へのアプローチよりも、はるかに包括的なものです。音楽を、都市のエコシステムとして全体的に考察してみると、そのインプットとアウトプットを戦略的に行うことで、都市の価値を高め、より良いコミュニティを築き、投資を呼び込むのに有効だとわかります。
コミュニティにおける音楽の力
ライフスパンという観点からみて、音楽は私たちの人生全体を豊かにしてくれるエコシステムだと言えるでしょう。赤ちゃんや幼児、子どもたちを音楽に親しませるメリットは枚挙に暇がありません。学校生活での音楽は、認知的・組織的スキルやマネジメント能力を養うのに役立ちます。バンドや聖歌隊では、他者と協力しあうことが不可欠ですし、きちんと出席するのが前提条件です。研究では、何週間かに一度コンサートに行くことで、寿命を何年も延ばせるとの結果が出ているだけでなく、高齢者が音楽を聴くことで、認知症の症状や孤独感を和らげる効果があるとされています。
多くの人がより密集したコミュニティに暮らしている現代では、コミュニティの構築環境の基準や、構成要素、街並みの質を高めれば、交流や集会にふさわしい、自然でのびのびした空間づくりにつながります。街の内外で行われるフェスティバルは、期間限定の都市空間ともいえる存在であり、支援を行うことで、ウガンダ共和国のニゲ・ニゲ(Nyege Nyege)のケースのように、周辺のコミュニティにとって、永続的なプラットフォームをもたらすことができます。また、音楽は、偏見や差別、不安といった問題にコミュニティが取り組む際のツールにもなります。
ウィスコンシン州マディソンでは、音楽とエンターテインメントにおける公平性に関する対策委員会が、制度に潜む人種差別に関して、必要な対話の機会を広げています。しかし、これらの取り組みは、コミュニティの一体性や経済的成長を促し、培い、維持するための重要な戦略的要素としてというよりも、特定の問題への解決策として音楽へアプローチしており、その意味ではサイロ化していると言えるでしょう。
ミュージック・アーバニズムが具現化するにつれ、このように世界中でゆっくりと変化が起きつつあります。